それから1


 家に帰ると二歹が玄関入り口で這い蹲っている。頭を軽く踏むと、頬を床に擦り付けてフローリングが気持ちいいと言った。
 相変わらず酒が弱いのに、いつまで経っても懲りない人だ。部屋に転がる缶の量から察するに、一回トイレで吐いているらしい。トイレを覗くとそのままになっていて、水洗のレバーを引いた。
「二歹さん、いつも言ってるだろ。酒を飲むなら二本までにすることって」
 全然聞いていない二歹はベッドに猫のように丸まり、指を咥えていた。
「せめて俺がいる時に飲んだらいいのに……」
 こんな無茶な飲み方をして、急性アルコール中毒になられたら洒落にならない。
 二歹の飲み方はいつもそうだった。お酒を楽しむわけでもない。ただ、馬鹿みたいにアルコールを摂取しているだけ。酩酊状態になって、俺のことを困らせたいだけ。
「だって……こさ、えっちしてくれないんだもん」
 赤ちゃんみたいに指を咥えたまま、そう言う二歹。セックスならおとといしたばかりだというのに。
 俺はベッドに腰掛けて、二歹の頭を撫でる。いつもサラサラの髪がボサボサになっている。今すぐにでも風呂に放り込みたいくらい、酒と汗で臭い。
「それならそう言いなよ。それに、おとといもしたでしょう。毎日したいの?毎日俺が恋しい?」
 どこかの引きこもりよろしく、二歹も家から出ない生活が続いていた。漫画やゲーム、エロい動画を見て暇をつぶしているらしい二歹の不健康な生活。
 俺が帰ると俺を求めて。
 そんな、生活。
「違う。もっと……」
「もっと?」
 酒を飲んでから時間が経っているのか、少しは酔いが冷めているらしい。それでも眠いのか、目を開けることはしない。
「前みたいにおれのことぐちゃぐちゃになるまで、やってよ」
 つまりは、欲求不満。
 大人になってから再会した頃のことを思い返す。あの時期は互いに荒れていて、俺はそれを二歹にぶつけていた。
 今思い返しても、酷い事をしたと思う。
 二歹はそれがいいと言う。
「こさ、おれのことずっと犯してよ。朝も夜もずっと、おれん中にちんこ入れて、ずっと犯してよ」
「それは俺が無理」
 俺が言うと、二歹は目を開いて俺を見た。
「なんで。おれじゃダメ?おれじゃこさは勃たない?おれのケツ気持ち良くない?おれじゃ気持ち良くできない?」
「違うよ。落ち着けって」
「じゃあおれのこと犯して。おれが嫌だって泣くまで、犯して」
「痛っ」
 何故か膝を噛みつかれた。そして二歹はそのまま寝息を立て始める。
 どこまで本気なのかわからない。でも、「酷くしてほしい」と思う節は今でもあるらしい。
 二歹に酷く出来たのは、二歹を嫌いになりたかったから。でも今は二歹が大切になっていた。優しく触れて、優しく愛し合いたい。
 SMでもすればいい、なんてのはそう単純ではない。酷くすればSなんてことはない。縛ったり叩いたり、羞恥を煽って相手の求めている事に応える。
 二歹が求めているのは気持ち良くなるための痛みではない。純粋な暴力だ。二歹を顧みない、酷い扱い。
「今の俺じゃ、二歹さんを気持ち良くさせられない?」
 すっかり眠り込んだ二歹に囁いたところで返事はない。
 明日は休みだから。せめて「嫌だ」と泣くまで、ぐちゃぐちゃにしてあげよう。
 俺も着替えて二歹の横に寝た。

「頭痛い……」
 昼過ぎ、遅く起きた二歹がそう言いながらリビングにやってくる。
「先風呂入ってきな。酒臭すぎる」
 俺が言うと二歹は素直に風呂へ向かった。
 昨日言ったことは覚えているのかいないのか。覚えていなくても、やろうと決めた事だからやってしまおう。
 ベッドのシーツを剥がし、防水シートを一面に広げておく。ベッドのシーツを剥がしたのは、酒を零していたからだ。洗わないと。
「こさー、ごはんー」
「今行く」
 リビングに行けばパンツ一枚で頭から水を滴らせた二歹。時には全裸で床に転がっていることもある。
 酒を飲んで酔っ払って怒られても、俺が甘やかすから二歹は何度も繰り返す。
「昨日のこと、覚えてる?」
 ご飯と味噌汁、焼き魚をテーブルに置き、俺はタオルを持って二歹の背後に立つ。頭を拭いてあげながら、二歹に聞いた。
「……うん」
「飯食べたら、するから」
「うん」
 俺がそう言うと、食べる手が早くなる。酷くしてほしいなんて、困った人だ。

 防水シートの敷かれたベッドに、パンツを脱いだ二歹がベッドヘッドの前に置いたクッションを背もたれに座る。足は立てて開かれて、性器も下の穴も丸見えだった。
「縛らないけど、逃げないで」
 俺は二歹の前にあぐらをかいて座り、ローションを二歹の性器にかける。それを優しく握って擦れば、間もなくして勃ち上がる。二歹の好きなところを中心に責め立てれば、呆気なく果てた。
「二歹さん、口開けて」
 俺が言うと素直に口を開く。その中に、手のひらで受け止めた精液を流し込む。
「飲まないで、口の中に入れておいて」
 口内に広がる不快な臭いと口触りに、二歹は眉を顰めて頷いた。
 そうして、そのまま俺は二歹の性器に触れる。ただのペッティングだけれど、始まったばかりだ。物足りなさそうな二歹だが、それも計画通りなので俺はほくそ笑む。

「ん、ん、ん、っ……ん、っう、っう、う、」
 二回目、三回目の射精後も精液を二歹の口に注ぎ、飲まないようクギを刺す。唾液と精液が混ざって、それを飲み込んでしまわないよう二歹は必死だった。
 本当は飲み込んでしまったところで罰も、叱るつもりもない。理由もないただのルールだ。それを従順にこなそうとする仕草は、愛おしいものがある。
 そんな二歹の首筋にキスをしながら、胸の突起を指で潰す。流石に四回目ともなれば勃ち上がりも鈍くなった。さっき出した精液も薄かったし、今日はもう種切れかもしれない。
 俺はローションを指に絡め、二歹の下の穴に這わせる。一気に二本を入れて数回抜き差しした後は前立腺をひたすら責めた。
「んん、んっんっんっくふっ…けっ、けほっ」
 気管に唾液やら精液が入ったのか、二歹は細かい咳を繰り返した。その度穴は指を締め付ける。責めを止める気はなく、前立腺をただ押し上げる。
 性感を直に擦られ、声にならない歓喜の叫びを全身で上げていた。背をのけぞらせ、脳髄に響く快楽に耐えるために身体を強張らせる。
 ピンと勃ち上がった性器はつまり、俺に舐めろと主張しているよう。ならば、喜んで舐めてあげよう。
 先端に舌を這わせれば、二歹の悲鳴に似た高い声が聞こえる。そこからゆっくり口に含んでいく。
 そういえば二歹は童貞だということを思い出す。生涯童貞で、俺の口内以外に包まれることなく終わりを迎えるのかと思うと、愛おしさが増した。
「んんんんんんんんっ」
 繰り返し射精してそろそろ限界の身体に鞭を打つために、前立腺を責めながら性器を絞るように唇で擦り上げる。
 何かに縋り付きたい二歹の手はクッションを掴んで引きちぎりそうな程強く握りしめた。
 先端を舌で抉りながら手で竿を何度も擦る。まともに喘ぎ声を上げられない二歹は、ぐうう、と呻き声を上げて俺の口内で果てた。
 ほとんど粘り気もなくなったそれを口に含んだまま、二歹に口付ける。呆気に取られた二歹の口内に残る精液と唾液と混ぜ合わせるため、舌を絡めた。
 二歹は嫌がるように顔を顰めた。キスが嫌なんじゃない。今もなお、亀頭を指で擦り続けているからだ。
 イった直後の性器は敏感で、元々敏感な亀頭を擦られる事は脳神経を直接弄られるように刺激が強い。
 それから逃れるためか、強すぎる刺激に身体が勝手に反応するのか、二歹の腰がびくびくと揺れた。
「んっんむんんんっっっ」
 びしゅっーーー。
 潮が吹き出す。背中に回されていた二歹の指が爪を立てて俺にしがみついた。がくがく震える身体に、何故か笑みが止まらない。
 潮吹きが終わらないうちに、再び亀頭を擦る。
「んあっっくっぁっだっあめ、ぐあっっあっっっ」
 ぶしゅっーーー。
 二度目の潮吹き。全身が硬直して声も出せないらしい。もう、指を離す気もなかった。そのまま亀頭を擦り続ける。
 もう二回くらいは、二歹に潮吹きさせたかった。
「ひいいいっやっっっんんんっぐ、っは、はっ、はっあ、っあああっ」
 ぷしっーーー。
 二歹は顔が真っ赤になっていた。呼吸すらまともに出来ないで、苦しそうに喘いでいる。潮吹きの量も減っていた。
「いやああああっんあっあああ、っあ……っっ」
 流石に無理だったらしい。最後に出たのは尿で、しかもほんの少しだった。それから身体を弛緩させた二歹の下の穴からは軟便が零れ落ちる。
 亀頭を擦るのを止めて終わったと思っているらしい。目を閉じてそのまま寝入ろうとする二歹の頬を軽く叩く。
「二歹さん、これからだよ」
 脱力して力の入らない二歹を抱き上げ、便のないところに移動する。それから二歹をうつ伏せにして、俺は自身の性器を取り出した。
「ちゃんと起きてて、二歹さん」
 疲れ果てている二歹が意識を飛ばさないか確認するため、腕を立たせて四つ這いにする。身体を支えることも出来ないで、すぐにベッドに沈み込んでしまう。
「二歹さんを気持ち良くしてあげたい」
 緩くなった穴に性器をあてがえば、難なく飲み込んでいく。無意識下で蠢く腸内に包み込まれる。静かで、熱い。
「二歹さん」
 バックからしたかったが二歹が意識を飛ばしていたのでは意味がない。肩を抱いて起こして、俺に背を向かせての騎乗位にした。
「二歹さん、動いて」
 俺が言うと、なんとかほんの少し尻を上げたり下げたりする。それが気持ちいいかは別として、二歹の胎内を楽しむには十分だった。
「いいよ、二歹さん。このまま朝まで、犯してあげる」
 俺が言うと、それに答えるように穴が少し締め付けた。
 繰り返し絶頂した二歹の、終わらない快楽を朝まで繰り返す。永遠に続くようなセックス。これがあなたの望んだ事だから。


終わり

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