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「……俺は酷いやつだから、二歹さんに三月のことを重ねながら、心のどこかでそんな自分を否定してたんだ。嫌いになるように、嫌われるように、酷いことしてた」
 摘まんでいた二歹の頬を放す。真っ赤になった頬を撫でると、目をつぶって気持ち良さそうにする。まるで猫のようだ。
 とことん痛め付けてきた。そうすることで、まだ三月への気持ちを持ち続けることが出来ると、そんな風に思っていた。
 怒りと加虐的な性癖を二歹にぶつける事で、三月へ抱いている気持ちが薄れてしまうのではないか。三月の代わりを見つけて、それに満足する。それが嫌だった。
 だから二歹を痛め付けて、ひたすらに嫌い、三月とは違う扱いをした。そうでなければ、三月より二歹の事を好きになってしまうかもしれない。人懐こい子犬のような二歹は、三月とは違う人を惹きつける魅力があった。
 二歹を好きになることは、二歹にも三月にも失礼だ。傷心したあの時に出会って傷を舐め合うような恋人関係。そんなのは嫌だった。
 では、三月と出会う前に二歹と出会っていたら、仲睦まじい二人になっていたのだろうか。きっと、二人の間に何も生まれなかった。
 寂しい二人が出会ったから、傷付け、傷付けられることを望んだ二人だったからこの関係も始まった。

「三月が好きだったから……二歹さんと関係持つのはいけないことだと思ってたんだ。今更だけどわかった。こういう出会い方、してもいいんだって」
 身勝手な考え。身を焦がすような恋愛をどこかで望んでいた。泥沼にはまるような恋愛ではなく。
「今度は優しいやり方で傷を癒しませんか」
 古佐治は二歹の胸に、傷付いた心を温めるように手を当てた。

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