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 二歹を抱き締めても性的な感情は湧かなかった。泣きわめく子供でしかない姿に、それこそ保育士のような気分だった。
 二歹は、たいしたことじゃないんだ、と前置きをした。
「大学から付き合いのある奴と、同居してた」
 鼻声に泣いて潰れた酷い声で二歹が語り出す。時折掠れて声が飛ぶ。全神経を傾けないと聞き漏らしそうな声に、古佐治は静かに話を聞いた。
「普通に仲良い友達だった」
 そういえば、同棲を匂わす話をしていたことを思い出す。よくあるルームシェアなのだろう。だけれど、二歹の表情も声も、それだけではなかったことを示していた。
「おれは、パソコンよくわかんないけど……そいつはパソコンよくやってて」
 時折強く目をつぶり、なにかを堪えながら言葉を紡ぐ。その時のことを思い出しながら、語りたくなかった記憶を吐き出している。
「個人の生放送?やってて」
 二歹がそこまで言って、ピンとくる。むしろ、パソコンの話が出た時点で薄々気付いていた。それがどう繋がるのかはわからないが、間違いなく、三月と柿狗の生放送の事だ。
「似てるな、って」
 二歹の手が古佐治の服を握る。
「似てるって、言ったんだ……」

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