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 二歹に三月を重ねていたのに、三月に二歹を重ねて見ている。いつしか三月に抱いていた感情を忘れてしまうのは、寂しく思えた。
「そういえば、二歹さんとなんか連絡取ってる?」
 別れ際、古佐治が聞くと三月は首を振った。
「なにも聞いてないなー。年末も忙しかったみたいで、今年は帰ってきてないしねえ。どうして?」
「ん、古い写真見てそういえば今なにしてんのか気になってさ。お前と二歹さん、双子みたいにそっくりだよな」
「そんなに似てないよ」
 否定しながらも、どこか嬉しそうに言う三月は、二歹を嫌っているわけではないようだ。
「そうだな」
 重ねた片割れと、目に付くのは違いばかりだった。
「時間邪魔して悪いな。なんかあったら言えよ、何でも手伝うから。旅行、うまくいくよ、お前らなら」
「うん、ありがとう。じゃあ」
 手を上げて去って行く後ろ姿を見送る。

 寝室の扉を開けると、ベッドの下に座り、上半身を掛け布団に埋めて眠っていた。ちゃんとベッドに上がって眠ればいいのに。これも酷くされたい願望の現れなのだろうか。
 二歹の隣に座り、腕枕をして見えるわずかな横顔を静かに眺めた。明るい茶髪、年齢より幼い顔、涙の跡を残した頬。
 ここに来てからこの人はどれだけの水分を放出したのか。身体から出せる物はだいたい出したんじゃないだろうか。
 人の気配に、ようやく目を覚ました二歹と古佐治の目が合う。古佐治は何を言うでもなくただ見つめていると、二歹は腕の中に小さく縮こまってしまった。

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