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 結局俺は、この顔に弱いんだろう。腫れ上がった二歹の右手を取り、指でなぞる。熱を持った患部は触れるだけで痛いのか、二歹が顔を顰めた。手から腕、首、顔、目へとゆっくり視線を移していく。
「はあ……はあ……あ、あ……はあ……」
 目が合った二歹の顔は、怯えて、求めていた。
 親指に力を入れる。
「あああああああ」
 痛みに力の入る二歹の手に、掴まれた古佐治の手も潰れてしまいそうだった。そのうち椅子から床に、液体が滴る。目じりから零れた涙も、食べかけのフレンチトーストに染み込んだ。
「俺がどんなに酷くしたって二歹さんは満足しないでしょう。最後には殺してしまう」
 テーブルに二歹の手を置き、古佐治は席を立った。
「それでもきっと、あなたは満足しない」

 二歹を置いて家を出る。三月に連絡をすると、恋人との甘いひと時を邪魔されたと怒っていた。内心ざまあ見ろと思いつつ、会えないかと聞くと、
「いいよ、今柿狗くん、寝てるから」
と答えが返る。
 三月いわく、眠る柿狗を見つめることも甘いひと時だということらしい。

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