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 朝になり古佐治が目を覚ますと、ベッドの足元の方で、ベッドに凭れかかり腕枕をして眠る二歹が目に入った。よくそんな体勢で眠れるものだ。口角が自然に上がったのは嘲笑なのか、ただの笑みなのか、古佐治にはわからなかった。
 起こさないように、などと気を遣うつもりもなかったが、静かにその部屋を出る。特に出かける用事もないが、身支度をして朝食を用意した。
 しょっぱめのフレンチトーストと甘めのフレンチトーストをそれぞれ作り、甘い匂いが漂う頃に二歹がリビングに入ってきた。
 二歹が古佐治を窺いながらおずおずとダイニングテーブルの椅子に腰掛ける。
 会話もしない、目も合わせない。昨夜以前よりも関係が良くなったのか悪化したのか、わからない。
 古佐治が熱いコーヒーの入ったマグカップを二つ、二歹と自分の席にそれぞれ置いた。フォークと取り分けようの小皿。二人分用意されたそれが、それだけで二歹は嬉しそうに微笑む。
 古佐治が何も言わず食べ始めると、二歹は小さくいただきますと呟いて、フレンチトーストを食べ始めた。先に甘い方を食べてしまい、あとから食べた塩気のきいたフレンチトーストに目を丸くさせた。
 顔には出さず、それでも空気が和らぐ。
 もっと違う瞬間に、違う形で出会っていれば、もっとましな関係になっていたのだろうか。月並みな考えに、古佐治は、きっとそうしたら、なにも始まってはいなかっただろうと答えを出した。

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