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 二歹の荒い息だけが響く。散々蹴られた全身が今頃になって悲鳴を上げていた。右手はヒビが入ってるのか、脂汗が滲んで吐き気が込み上げる。穴に指が入らない。入っても抜き差しすらままならない。前立腺など届くほど奥にも進まない。
 デタラメに指を動かして、傷口を広げるのに必死なようにしか見えなかった。実際、その通りだった。
 古佐治は覗き穴から、完全な変質者でしかない二歹を眺める。自分でやれと言ったのに、本当にやられると気持ちが萎えていった。
 それでも二歹は古佐治の言葉に従うしか出来ない。二歹が縋れば縋るほど、古佐治の心は冷めていく。
「はあ……はあ……はあ……はあ……」
 力尽きたのか、呼吸で胸が上下するだけで手は全く動いていない。いや、痛みで微かに震えているくらいだ。
 思った以上につまらない終わりに、声をかける気も失せる。警察に通報したら、事情を聞かれるのだろうか。二歹だけどこか目に見えないところに連れて行ってくれたらいいのに。

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