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「三月が好きなんだろ」
 先ほど二歹の頭を叩いた手が、二歹に掴まれる。痛みはないが、じっとりとした熱がきつく締め付ける。振り解こうとしても、どこにそんな力があったのか、離れない。
「三月の代わりでいいよ」
 二歹が、横向きに寝ている古佐治の上に跨る。掴まれた手はそのまま、古佐治の顔の前に空いてるもう片方の手を突いた。
 目を合わせて、二歹の口がゆっくり言葉を発していく。言うな。頭とは裏腹に身体は動かない。
「好きだよ、古佐治」
 二歹がしっかり言い切ってから、掴まれていた手を強引に動かし、二歹の喉を締める。
「2度と、口にするな」
 二歹が満足気に微笑むと、もう一度、好きだよ、と口にした。
 古佐治は力任せにベッドから二歹を突き落とした。床に転がった二歹がベッドに這い上がろうとするから、それを足で蹴落とす。
 それでもまた起き上がり古佐治の方へ向かおうとするから、古佐治はベッドを降りて二歹の股間を蹴り上げる。痛みに悶える二歹の足を掴んで、引きずった。
 躊躇なく向かった先は玄関で、二歹が柱にしがみついて抵抗するから、踏みつけて蹴りつけて力の抜けたところを狙うしかない。
 二歹は必死だったが、古佐治も必死だった。
 玄関外に二歹を突き飛ばし、扉を閉めて鍵をかける頃には、古佐治は汗だくで上がった息もなかなか整わない。
 扉の向こう側では二歹が、開かないとわかっていながらドアノブを捻りがちゃがちゃと言わせた。
 古佐治は扉に背中をつけて、ずるずると床に座り込む。
 耳から離れない二歹の言葉に、重ねてしまったあの姿に、古佐治は頭を抱えた。

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