32


 心も萎えて、性器を二歹の中から引き抜く。汚れをトイレットペーパーで拭い、便器を覆うように蹲る背中に丸めて投げて、トイレから出た。
 顔が見えなかったのがせめてもの救いだ。
 どんな思考回路をしてるのか、二歹が全く理解出来ない。いつ、どこから、好きとかそんな風に思えたのか。振り返ったところでその要素が見当たらなかった。
 そのくせ、酷くして欲しいという。よくもまあ、兄弟揃って手に負えない性癖を持ったものだ。
 古佐治がベッドに横になると、しばらくして二歹も寝室に来る。顔を洗ったり水分を取ったおかげで多少顔色が良くなっていたが、古佐治は扉から背を向けていたために見えない。見たくもない。
 二歹はベッドの下に座り、額をベッドに押し付ける。微かな揺れで、古佐治もそれを感じ取った。
「こさし……」
 二歹が呟くような声で古佐治を呼んだ。けれど返事は最初から期待していない。ただただ、その名を口にする。
「こさ……」
 そっと手が背中に触れる。熱か、酔いか、汗ばんで妙に熱い指に背中をなぞられ、古佐治の身体がビクッと跳ねた。
「好き……こさし、好き……こ」
 骨と骨がぶつかる嫌な音が、二歹の言葉を遮る。横薙ぎに振られた古佐治の手が、二歹の側頭部を叩いた。
「その顔で喋んないでもらえますか?それと、好きとか今更言われても、意味がわからないんで」
 冷たく突き刺す言葉が、二歹の口を縫い付けてくれればいいのに。

- 32 -


[*前] | [次#]
ページ:






戻る