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 便器に頭を突っ込んで嗚咽を繰り返すが、再び吐くことは出来ないらしい。ひたすら口の中の気持ち悪さを抱えたまま、吐けないものを吐こうと喘いだ。
 その後ろ姿に興奮してしまう。弱った体はより貧弱さを醸し出し、涙を流すためだけに背中を震わせた。その腰を掴み、スウェットとパンツをずり下ろす。
 二歹の強張る身体。
「いいですよ、そのままで」
 二歹の息がはっ、はっ、と荒くなる。今なら望み通り、酷くしてやれそうだ。手に唾を吐き、猛る自身を取り出して唾液を擦り付ける。潤滑油になるわけもなく、むしろ、自身をより硬くさせただけだった。
 閉じた穴をこじ開けるように人差し指を捩じ込み、力尽くで開かせた隙間に中指を押し込む。気持ち、以前より穴に力が入っていない気がする。傷付けるだけの暴力に、入り口は麻痺していてもおかしくない。
「はっ……このままガバガバになったら、いよいよ使い道ないですね」
 酷くすれば、いつか泣くのだろうか。泣いたら、少しは感情も芽生えるのだろうか。
 誰も止めないから、二人はもつれて、落ちていく。
「がああああ」
 トイレに絶叫が響く。固く閉じた穴はきつく、滑りも悪く、その行為に快楽もない。いつしか二歹が身体を弛緩させ、床に黄色い染みを作る頃、古佐治の熱も果てることなく収束した。
「好きなんだよ……」
 うわ言のように二歹が呟く。声は叫び続けて枯れていた。その錆びれた声が心地良い。
「こさしが好きなんだ……好きなんだよ……」
 泣きながら、手で顔を覆いながら、二歹が言った。
 なにそれ。
 古佐治はむしろ、笑いがこみ上げて来る。好きって。

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