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嘔吐注意
嘔吐リバース注意
注意!

 なんとなくバカな犬みたいにまた勝手にベッドに上がってくるのではないかと思っていたから、寝室にさえ現れない事が気になった。
 熱がぶり返そうが野垂れ死のうがどうでもよかったが、一度気になると無視できない蝿のようにうっとおしい。チッ、古佐治は舌打ちしてリビングに戻る。時刻は深夜を指していた。
 空きっ腹にビール、なんてバカな人だ。ただでさえ下戸で、熱がひいたのかもわからないのに。ソファの下で横になる二歹の傍に缶ビールが一本。
 飲まなきゃやってられないというのなら、こんな場所から逃げればいいのに。
 古佐治は二歹の前にしゃがみ、じっと観察する。今にも吐きそうな蒼白した顔色で、眉間にしわを寄せている。このまま寝ゲロするつもりだろうか。
 缶を避けようと持てば、半分程が残っている。
「二歹さん」
「ううう……」
 声を掛けると低い呻き声を出す。口を開いたり閉じたりして、もう吐いてしまいそうだった。
「ここで吐かないでくださいよ」
「むり……」
 今にも吐きそうな口に手を当てて抑える。
「ほら、トイレ連れてくから、起きて」
「うっぐうう……っえぐっげっげっ」
 結局吐いてしまい、出しどころのない物は逆流した。鼻からこぼれる汚物。手の隙間からぼたぼた落ちて床を汚す。生理的に涙を零した。
 ああ、これだ。
 熱が上がる。汚くて、臭い中で。

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