28
二歹が目覚めるとベッドの上にいた。多少熱の下がった頭でぼんやりと古佐治との性行為を思い出したが、胎内の不快感はない。
真っ暗な部屋に古佐治はおらず、二歹はふらふらしながらリビングへ行った。リビングのソファに寝転がる古佐治がいた。
傍には缶ビールを転がし、携帯をポチポチと弄っている。二歹は古佐治の脚側、ソファの下に座り、頭だけ寄りかかる。特になにを言うでもなく、古佐治を見つめる。
「なんですか、熱上がりますよ」
古佐治は携帯を持っていた手で、軽くこつんと二歹の額を突つく。二歹は全然痛くない額を手で撫でた。
「こさって、優しいんだな」
ぽつんとした呟きに、古佐治はぽかんとした。
ヤりすぎて気でも狂ったか。犯罪に巻き込まれた被害者は時にその犯罪者に好意を持つと言う。責任を持つ気はなかったが、犯罪とまでは言わないものの二歹に酷いことをしてきた自覚はある。
それが、優しいとか。
この人はおかしい。この同居が始まった時から、ずっとおかしい。
「どうかしてますよ、俺が優しいんだったら、世界中の殆どが優しい人になりますよ」
「こさしは優しいよ」
再び言う二歹の言葉に、古佐治の胸がチリっと灼けつくような痛みを感じた。優しい人間になんて、なりたくなかった。
頭の中に浮かぶ、二歹によく似たその人に、優しくしたって手は届かなかった。
優しいなんて評価、嬉しくもない。
「じゃあもっと、酷くしてあげますよ」
古佐治は足で、二歹の胸を押して床に倒す。二歹はその足を愛おしそうに触るので、反吐が出そうだった。
「酷くされた方が、おれはいい」
「変態の、マゾヒスト」
二歹が酷くされたい理由を話さないから、古佐治もその理由を聞かない。
酷くされたいと言う二歹に従うようで癪だったが、優しくなんてしたくもなかった。
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