歌詞 2 | ナノ


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2018.5.13
拝啓


拝啓

失った瞬間が頂点である価値の大きさは、思い出になったら麻痺であると、あなたが教えてくれました。額縁に入った絵に色を付けても手遅れなように、生々しく思い出せることが綺麗なことだけになってしまったら、本当に大切なものは薄れていく一方だと。無くしてしまったと気づいた瞬間の喪失感こそが、一番の証明なのだと。
久しぶりに会ったあなたは大人になっていましたね。きっともう2度と会うことはないのでしょうね。ふたりで息を止めてミサイルを待ったあの夏にも、何でもないのに魂が響き合って涙が出てきてしょうがないあの深さにも、もう戻れないのでしょうね。
言い残したこともやり残したこともないのに、この漠然とした寂しさが、あなたの魂との共鳴を忘れていく一方である未来を確信しています。魂が交差するあの一瞬を、わたしは生きている限りまた探してしまうのでしょう。まるで何もなかったように笑う、思い出に変えてしまったあなたに幸あれ。

敬具。




──拝啓。

あの夏の破片が突き刺さったままの心臓がこんなにも愛おしいのに、新しい夏が来るたびに破片が抜けていくのを止められない。代わりが入る場所ではなく、癒える場所でもなく、ぽっかり空いたまま、塞がっていた季節のことを忘れるだけの穴。思い出そうとするたびに穴からどくどくと血液が溢れるだけで、それでも破片が刺さる前の、何も考えずにのうのうと鼓動をしていた生温い私にも戻りきれない。他の刃物を代わりに突き刺した所で当てはまらず、更に穴は広がるばかりだ。今となってはこの寂寞を感じられることすら愛おしく、いつかこの穴の存在すら忘れてしまうことを思うと泣けてしまう。
お元気ですか。あなたとの夏は今でも眩しくて、熱線になって私の頬を焼いているよ。私の全ての臓器が今でも夏だよ。距離ではなくて場所があったことが、どれだけ素晴らしいことだったか。あの価値をくだらないと笑って消費する日々が。あなたの心臓が無事でありますように。幸せでありますように。

敬具。






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