煩い休日の煩い喧騒の中、私とその恋人不二は見事にその煩い空気に溶け込んでいた。


「私の!」


「ボクのだよ」


まあ早い話が、喧嘩であった。
しかもただの喧嘩ではない。
これ以上ないくらい、くっだらない内容の喧嘩。


「このメチャクチャ可愛いコはうちに持って帰って大事に育てんの!」


「そんなの許さないよ、コレはボクが育ててる途中なんだから最期までボクが責任を持って」


「不二は思いっきり嫌われてんじゃん!今だって別々に暮らしてるし!」


「そんなことないよ、確かに避けられていた時期もあったけど今じゃ昔のようにアニキアニキ言って懐いてくれてる」


そんな言い争いを聞いていた私たちが奪い合っているソレは、ふるふる……いや、ワナワナと震えている。


「……お前らいい加減にしろーっ!!」


オープンカフェのテーブルをダンッと叩きつけ、裕太君は叫んだ。



………………



簡単に言えばそう、私たちは裕太君を取り合っていた。

久しぶりに家に帰ってきた寮暮らしの不二の弟、裕太君。
折角だし3人で出かけようぜ的なノリで、街をぶらつきカフェでお茶をしていた時、裕太君が話のネタにと鞄から取り出したのは、裕太君の学校での各行事の写真だった。

それがまた、えらいよく撮れているのである。
体育祭での格好いい裕太君、交流会での初々しい裕太君、そして何より私の目を引いたのは、文化祭の写真。

セーラー着てた。
顔を真っ赤に照れてた。
可愛すぎた。


「ヤバいよねコレホントヤバいよね、裕太君可愛いすぎるよね、持って帰って育てたい」


「だから裕太はボクのだって」


「ンなワケねーだろ!」


こんな風に真っ赤になって怒る姿さえ可愛い。ホント罪だよ裕太君。


「大体な!仮にも恋人同士のくせして、なに弟取り合ってんだよ!」


「いや、おやつは別腹」


「…………誰がおやつかー!!」


そう叫んで「俺を食うのか!食うのか!」とわめく裕太君を可愛い可愛い言いながらひとしきり眺めた私たちは、裕太君争奪戦を再開したのだった。



end


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「見えない臓器の名前は」
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