十数年に渡る私の彼氏いない歴は、ある日唐突に終わりを告げた。


「1年の頃からずっと好きだった」


放課後の誰もいない茜色の教室でそんな告白をしてきたのは、クラスメートだった。
1年の時もクラスメートだった彼は、当時より男子らしい体つきとなって私を後ろから抱き締めた。


「は、…………」


「………………」


言葉が出なかった。
理由は簡単、まさか告白されるとは思わなかったからだ。
まさか、あの不二周助君から。

ぐるぐるグチャグチャと思考が廻る頭の中。
何か言った方がいいのか、何を言えばいいのか、というかこれは愛の告白でいいのか、それなら返事をした方がいいのか。


「桃之木さん」


「は、はははい」


ほぼ耳元で囁く状態で彼、不二君は言う。


「桃之木さんは……ボクのことどう思ってる?」


ど、ど、どう、って。
急にそんなこと言われてもだな。


「え、えと、そ、の、ふ……」


「こうされるの、イヤ?」


消えるようなその声にやや息を詰まらせ、小さく首を横に振る私。
決してイヤなんではない。いやなワケがない。
んだけど、なん、なんて言ったらいいのか検討もつかない。
私って今まで告白されたことなどなければ男子に好かれたこともなく、対応マニュアルを持ち合わせていない、アドリブにとてつもなく弱いんだよね……!
そのくせ、ちゃっかり好きな人はいたりするから難儀なものである。

ふ、と微かに笑い声を漏らす不二君。
すると抱き締める力をぎゅう、と強くした。
どくん。鼓動が高鳴る。


「すきだよ」


囁かれる。


「ずっとすき」


「………………」


「きっとこれからも、ずっとすき」


「………………」


……いくら恋愛経験値の低すぎる私でも、今の台詞にはくらりときた。
こんな、こんなことを言われて……何も感じない女子がいるんだろうか。


しばしの静寂のあと、


「……ごめんね」


「……?」


いきなりの謝罪。


「イヤなら、すぐ離れるから」


そういうことらしい。
正直なところそろそろ心臓が限界なので離れて欲しい。私が「イヤ」と言えば離れてくれるんだろう……が、それは彼の告白を断っているのと同じことになる。
それは…………。

私は持てる気力の全てを振り絞って、すうっと息を吸って、言葉を紡いだ。


「あ、の……イ、ヤ、じゃ、ない、よ」


「………………」


途切れ途切れになりつつも、私は言いたいことを告げる。


「でも離」


離れて欲しい、と言おうとする前に彼は私の両肩を掴んで私の身体をぐるりと半回転させ、向かい合わせになったその直後、彼の顔が目の前にあった。
唇に唇が触れた。


ちゅ。
微かなリップ音と共に離れる不二君。

ポカンとした数秒後に顔をカッと朱く染めてしまった私に、不二君はにこりと純粋な笑みを満面に浮かべて言ったのだった。


「すきです、つき合ってください」



end


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