不思議だと思うのは、近くにいるだけより触れ合った方が相手を感じられるということだ。
至近距離にいるけど触らない状態より少し離れていても指先だけは触れ合っている状態の方が、そこに彼がいるという実感がわくのだ。


「おかしいよね、ふつう近い方がいいのに」


私がそう言って笑うと「至近距離で触れ合ってる方がいいな」なんて言う不二君。
それは敢えて選択肢に入れなかったというのに。


「体温、かな」


「うん?」


「触れた方が近く感じる理由」


不二君は私の右隣で携帯を弄っている。
弄っていない方の手はカーペットの上、の、私の右手の上。
不二君との距離は、50センチくらい。


「温かいじゃない、人間の身体って」


「うん」


「それに、意思を持って動く。だから、触れれば“そこに生きてる”って実感がわくんじゃないかな」


「ああー……」


なるほど、ね。
私は素直に納得した。

彼の冷たい手は、私の手の上で私を包んでいる。
冷たくても私は、不二君の手を感じ、不二君を感じている。
そこに、不二君がいる。


「……うん、そうだね。不二君冷たいけど」


「桃之木さんが温めてくれてるから大丈夫」


「ふふ。……ねえ、不二君」


「なあに?」


私はずい、と身を乗り出して彼と携帯を遮り、彼に身体を預けた。
温かい。


「いてくれて、ありがとう」


「……うん。ボクも、ありがとう」


重なる不二君の鼓動と私の鼓動。
触れ合うのって幸せだなあ、と、身に沁みて思った。



end


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