ああ、今日も時間がないな。
母さんも忙しく、朝早くに行ってしまうため起こしてくれることはない。まぁ、起こしてくれと言ったところで、自分で起きろと言われてしまうのだが。
「……んんー、おはよう。ポチ」
毎回私の体の上で飛び回るのは愛犬のポチだ。今年で5歳になる。トイ・プードルの茶色というお洒落な犬ではなく雑種だ。今はハイブリットと言うらしいが。
最近には珍しく感じる捨て犬だった彼女を拾ってきたのだ。可愛くて、つい。
「ポチ、退け。私は今から学校だ」
上半身を起こしポチをベッドから下ろす。長く伸びてしまった髪の毛も今日は括れそうにない。仕方ない、学校についたら友人に括ってもらおう。
昨日のうちに用意しておいた今日の用意と、紅茶の味の甘さ控えめなクッキーを持ち焼いてもいない食パンを加えて外に出る。
クッキーは私のではない。
昨日、笠松くんには私的には、かなり助けてもらったからな。あれは嬉しかった。
だけど、何故彼があんな所にいたんだか。部活一筋の彼が部活を休むとは思えないし、多分その部活が休みだったのだろう。
まぁそんなことより、今日も一日頑張ろう。
昨日はコンタクトで今日は、メガネ。コンタクトは朝起きて時間がある時しかしないからな。まぁ、今日は寝坊してしまったから仕方が無いと思う。
まぁ、気にすることもないだろう。
今何時間目だ?ああ、三時間目がちょうど終わったところか。
「遅れてすみません」
「あ、敷島さん。何かあったの?」
「ねぼ……産気づいていた女性を病院に」
「はい寝坊ね〜。座りなさい。あなた遅刻も大概にしなさいよ?」
「まだ今月4回目です」
「多いわよ、みんなと比べると」
今は古典の授業だったらしい。
しかも私の好きな漢文だ。漢文は楽しいが漢字の読みなどは覚えたくないので嫌いだ。いや、どちらかというと古典よりは好きなだけ。
「じゃあ、再開するわよ」
席に付けばとなりの男子が誰、と言ってくる。先程名前を呼ばれたじゃないか。名前を答えてやるとどうやら髪の毛でわからなかったらしい。どうやら今の髪の毛の状態は悲惨のよつだ。
「杏奈、頭あとでやってげようか?」
「ああ。頼んでいいか?」
「もちろん」
後ろの女子の名前は……山田さんだったかな。有難い。
鏡も櫛もなければでき無いのだからどう仕様もない。どうせ誰かにやってもらわなければいけないのだから。
「で、ここの答えはCよ。って秋道さーん?携帯触らないの!」
「げぇっ」
全く……いつも秋道くんは叱られているな。主に携帯関係で。
可哀想に。触り方が下手くそなのだ。いや、何か痴漢みたいになってしまったな。
「じゃあー……この問題天田さん」
「え」
「どうかした?」
「や、何でもないです。そこは……A?」
「おお。自信持って」
あ、やっとやってるところようやくわかった。
宿題だった問題集だ。今答え合わせしてるところか。よかった、必死で教科書のページ探していたのに。
「はい次はー……」
今日はそう言えば答え合わせをするからちゃんと問題集持ってくることと言われたんだった。それも昨日。
カバンから取り出して問題集を開いた瞬間チャイムが鳴ってしまった。
「あ……」
「はい、次当たる人はちゃんとやってきなさいよー。それに敷島さんは遅刻しないこと」
「……はい。すみませんでした」
「はい、おわりまーす」
起立、礼、をした後カバンに手を突っ込む。掴んだのは昨日作ったクッキーだった。そのまま髪の毛を山田さんにやってもらい隣のクラスに向かう。
「失礼するよ。笠松くんはいるか?」
「お、杏奈もついに色気づいたわけ?」
「そんなわけ無いだろう?礼だ、礼」
それから笠松くんを呼んでもらうと額に深いシワを作り顔を私から背ける笠松くんとご対面した。昨日ぶりだ。ヒューヒューと子供のように囃し立てるクラスメイトに苦笑いを向ける。
「……だ、誰だ」
ああ、彼は女子が苦手だったな、そう言えば。
「昨日ぶり。敷島杏奈だ。昨日はありがとう」
「き、のう?」
「ぶっ、君は本当に女子が苦手なんだな」
「笑うんじゃ、ねえっよ」
「声が裏返ってるぞ」
クスクスと笑ってから青い包装紙で包んだクッキーを目の前に突き出した。それを見て、は?と眉間のしわが余計深くなる。
「クッキー」
「だ、だだから?」
「ぶはっ!昨日、ゲームを手伝ってくれたろ?その礼だ。昨日ゲーセンで会ったの、覚えてないのか?」
「?……ああ!」
思い出したのか、ポンと手を叩くジェスチャをする。
それから少しだけ顔を赤くする。さっきから真っ赤なのに余計に真っ赤になる。昨日のことを思い出したのだろう。
「そういうことか。別にいいよ、んなもん……」
「私が良くないんだ。紅茶は飲めるか?」
「……の、飲める?」
なんで疑問系なの?こっちが聞いてるのに聞かれたらどうしたらいいのさ。
手渡すと恐る恐るそれを受け取る。なんか、嫌だ。
「ま、不味かったら捨ててくれっ」
あまり作ったものを他人に上げるということをしなかった為こういうのが恥ずかしかったりする。
恥ずかしくなってじゃあ、と一言だけ言って私はその場から走って自分のクラスに帰っていった。
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