迎えに行く、それはどう言う意味にとっていいのだろうか。
今度は、私が目を見開き突っ立っている番だった。


「高校卒業したらすぐなんて言わねぇよ。てか、無理だしな」


「当たり前だろう。それに、そんなことする頃にはもう君にはきっと」


「最後まで聞け、馬鹿野郎」


目も合わせない、彼自身に近寄れない。声をかければ体を大きくビクつかせ、数十cm離れていく。話始めればどんどん声が小さくなっていく。顔を反らせる。追いかければ逃げる。ゲームをするためにゲーセンに引っ張っていけば案外うまくて。二人でゲームをすれば顔を見合わせて笑って、彼だけわれに帰り顔を真っ赤に染める。何十秒も顔を合わせることができなかった。
そんな彼が、私の顔を、目を見てはっきりと話す。ああ、いつもよりも何倍も何百倍も格好良く見えるよ。でも私はいつもの方が好きだな。初々しい、あの表情が、行動が好きだ。微かに見せてくれる笑顔も、優しさも、男らしさも、全部好きなんだ。


「大学終わったらそっちに迎えに行く。絶対だ」


「……そんなに離れてしまえば、私には好きな人がいるかもしれない」


「お前に彼氏がいようとなんだろうと、会いに行ってやるよ。そんでそいつからお前を、奪う」


「君が来なくて、私ばかり待ってたら、どうするんだ」


「行く。必ず」


「上げて落とす、なんてことはしないでくれよ」


「しねぇよ。信じろ」


「信じて、いいのか?」


「おう」


「じゃあ、君が来なかったら私が会いにいくよ。大学が終わったら」


「来んのか?」


「行ったら、ダメないのか?」


「……迎に行くのは、男の仕事だろ」


その時の顔は、見ていてこっちまで恥ずかしくて。腕で顔を隠しながらモゴモゴと言った彼は先程のきりりとした彼ではなく、いつもの彼だ。照れ屋で、女の子が苦手で、少し女々しい笠松くん。


「だから、待ってろ」


「……待てたらな」


「そこは、待ってるとか言えねぇのかお前は」


「……約束」


小指を絡めて、額を合わせる。
風で笠松くんの家の柔軟剤の匂いがして、彼の肩にそのまま額を落とせば、柔らかい匂いがする。
小指だけ繋がっていた手はバラけて、互の指を絡めて手を繋いだ。片方だけ温度の違う手に戸惑う。でも、これで最後じゃないということに口元が緩み、手に力を込める。
きっと私は笠松くんしか好きにならない。好きになれないんだ。こんなにもいい人に出会ってしまえば他の人なんかきっと、目に入らない。引っ越してもそれは変わらないだろう。きっと、朝学校に来てからすることと言えばキョロキョロと目を動かして笠松くんを探して、いないことに落胆する毎日になる気がする。
それでも……


「待ってるから」


街灯が照らす道の真ん中で誓い、もう何年になるだろうか。


「おい!敷島!」


「!笠松くん、今電話しようとした」


「電話ァ?んなもんしなくても、迎に行くって言ってただろうが」


「……信じてたよ、笠松くんが来てくれるってね」


手を繋いで気づいたのは、数年前とは少しだけ違う男性の手に変わっていたということくらいだ。他は変わってなんかない。変わっていない、少し女の子が苦手なのも、何も。


「お前、変わってねぇのな」


「そうかな?」


「唯一変わったのは、あれか、口調か」


「ああ、両親に言われてね。前の方が私的には使いやすいんだけど……」


「俺の前ではお前が好きな方にしろ」


お前はお前でいい。そう言ってくれる君のことが本当に好きで。


「待たせた。……はぁ

好きだ。俺と、付き合ってくれないか?」


「……喜んで」


彼の胸に飛びついて、四年前と同じ言葉を彼に告げる。


「好きだよ」


少し照れるように身をよじった彼のことをもう離さないように、腕に力を込めて抱きしめる。
笠松くんも、ゆっくりと私の背に手を回していた。
私たちの青春はこれから始まるのだ。少し遅い、けれども私たちの青春。


「俺もだ」


耳元で囁かれた言葉に照れて、そして、彼の鼻にキスした。


「おまっ!!!!??」


「鼻は愛玩だそうだよ」


鼻をくっつけ、笑いあい、今度こそはと唇を重ね合わせた。


fin.
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