「な、何の冗談だ」


「本当に、冗談だったら、よかったのにな」


道端に転がってる何の変哲もない小さな石をローファーで蹴る。それは、笠松くんの前に転がり止まった。
そんな石をじっと見つめた。笠松くんを見ていたくなくて。


「じゃあ、本当なのかよ」


「嘘でこんなこと言わないさ」


「それもそうだけどよッ」


「すまない。私は、私だって!……ここに、いたいよ……君のそばにいて、ずっと笑って、るんだって……っ思ってたッッ!」


俯きながら、涙しながら、鼻をすすりながら、拳をきつく握りながら、か細い声で叫んだ。心からの痛いほどの叫び。もう、笠松くんの青いジャージが幾重にも重なってぼやけている様に見える程、私は涙を流していた。


「だから、あの言葉を、想いを、取り消しては……くれないか……?」


「……何の、話だ」


「WCが終わってから、ちゃんと言うというあの言葉と君の想いだッ」


「……嫌だ」


「神奈川と、京都、だぞ。私は生憎ッ君の言葉を、想いをッ信じることはできないんだ……」


しゃっくりが止まらなくて、言葉が途切れ途切れになってしまう。私はよく笠松くんの前でなく気がする。何故、彼の前でこんなに泣きじゃくっているのだろうか。馬鹿の一つ覚えみたいに泣いている自分がここにいる。
冗談とか、笠松くんが言うのが悪いんだ。信じてそっか、で終わらせてくれなかった彼が、悪いんだ。


「嫌だ」


「頼むよ。私より、君に合う人がきっと……きっといる」


「嫌だっつってんだろ!」


「こっちだって引く気はない!」


「ふざけんな!お前の嘘何ざ聞きたくねえんだよ!」


「ッッ!」


あまりの気迫にスクールバッグを地面に落とす。笠松くんはそんなことも気に止めないかのように話し出す。いつもの彼なら、想像もできないような言葉だった。


「何やっても何しても誰にあっても……俺はお前しか、好きとかにならねぇよ」


「何を」


「俺は、お前じゃねぇとダメなんだよ……だから嘘つくんじゃねぇ」


だから何で、君が私を抱きしめて、震えてるんだ。何でそんな態度を取るんだ。どうして離してくれないんだ。どうして、君はそんな性格しながら私を抱きしめてくれるんだ。


「そんなこと言われたら、離れられないじゃないか……!部活も退部してきた。荷物も詰め始めてる。両親は行く気満々。私は、母親の幸せを願う義務がある」


腕に力を込めて笠松くんの肩を押す。
もう、離れなくちゃ。もっといたいと思ってしまうから。一緒にいて、WCまで待っていたかった。彼からの言葉をちゃんと聞いて頷いて、どれだけ嫌がっても彼の胸に飛び込んで好きだと伝えるつもりだった。でもそれも、もう終わり。


「取り消してッッ……君の想いも言葉も、全て」


掠れた声で絞り出す。


「わかった」


「え?」


「……お前がそういうなら」


私がそんな顔をさせているんだな。
泣きそうで、それを堪えて無理に笑っているその顔は私のせい。そう、全て私が悪いんだ。だから、潔くさようならと言ってくれたら構わない。


「訂正する。お前を、敷島迎えに行く」


その言葉の意味を、私は期待しても構わないのだろうか。
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