「……黄瀬くん?」
携帯を開けば黄瀬くんからのメール。開ければ今日の噂の事だった。非は自分にあると書いてある。
職員室で倒れた私に大騒ぎしたのは黄瀬くんで、先生の制止も聞かずに保健室まで運んだという。
「はは、そんなの、平気なのにな」
その彼の勇姿に尾がついたのだ。全く、嫌なことをしてくれる。尾を付けたやつは何処の誰だ。黄瀬くんがせっかく運んでくれたというのに。
【平気だよ、すまない。運ばせるなんて悪かった。黄瀬くんにも迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ない】
そうメールに書き、返信した。相変わらず、メールの返信が早い。きっと、ベッドに正座でもして目の前にある携帯をじっと見ているのでないだろうか。
その姿を想像して、吹き出す。黄瀬くんならやりそうだなと思ったからだ。
【ホンットにすみません!俺、どうしたら償えるのか考えてたんスけど……わかんなくて】
償う……償う!?二度見してしまったぞ、今。可笑しいだろう、その程度で償うなんて可笑しいぞ!
画面をスクロールしていくと笠松くんについて書かれていた。それで納得。
【笠松先輩との関係とか悪くなってないっスか!?】
それを心配していたらしい。その可愛さに微笑んでしまった。彼はなんと優しい人なんだろうか。流石、ファンの女の子に囲まれていても優しく対応する人だけある。
しかし、過激派もファンの中にいるようだが。今日の人達のように。
【本当に平気さ】
そして、その後に笠松くんに好きと言われたと書いたが迷った末に消去して、その一言とお休み、とだけ送っておいた。
こういうことは応援する、と言ってくれている人でも報告することではないだろう。
すぐに携帯が震えて黄瀬くんからの返信が来たのだと思った。
【To:前橋 智香
杏奈も笠松のこと、好きだったの?だったらごめん。私最低なこと、してたよね。ごめんね
−end−】
その言葉に驚いて、絶句した。彼女がなぜ謝っているのだろうか。彼女は何も悪いことなんてしていないのに。
好きになってしまったのは私なのに。裏切ったのは、でしゃばったのは私だ。
「……ごめん」
もう一通、メールが届き何かと見れば再び智香。
【好きになっちゃったのは仕方ないよ。恨みっこはなしだよ、恋愛は】
ありがとう、おやすみ、その二言だけ打ってベッドに倒れ込む。私は、友人に恵まれたらしい。きっと、彼女だからこうやって許してくれたのだろう。明日、ちゃんと謝ろう。そしてお礼をいおう。私と友達になってくれて、友達でいてくれてありがとう、と。
「姉ちゃん」
「……翔太?」
「入っていい?」
「うん。おいで?」
「…………今日布団敷いてここで寝てもいいか?」
その子供っぽい言動に吹き出した。それから、思い切り抱きしめるとキモイ、とゲンコツが飛んできたが気にせず抱きしめた。
私の可愛い可愛い弟。きっと、母さんは京都に一緒にいけと、答えを出すだろう。ごめんね、役に立たない姉で。
「同じベッドで寝るか?」
「それだけは勘弁」
「じゃあ、自分の部屋で寝ろよ」
「ヤダからこっち来たんだろ!」
「はいはい」
明日、黄瀬くんに引越しが早まったことを報告しよう。もう、決まってしまったことだから。
笠松くん、ごめんね。
その言葉を呟いて布団をかぶり直した。
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