ゲラゲラと下品に笑う彼女らは誰なんだろう。ちょっと、と呼び止められてノコノコ着いていけば私の周りを囲み笑いながらこう言った。
「黄瀬くんと付き合ってるってホント!?」
「え、私笠松と黄瀬くんの二股してるって聞いたよー?」
「え、私黄瀬くんのセフレだって」
「えー、マジで?あははは!」
正直、何故こんなことになってしまっているかはなんとなくわかってる。そして、この噂があるからきっと笠松くんが話しかけても無視するのだろう。軽蔑、されただろうか。
「要件は、何だ?」
思ったより低く出た声に内心驚きながら強気に出る。
ゲラゲラ笑っていたのをピタリと止め、気持ちの悪い笑みを浮かべた彼女等は顔を見合わせた。
「黄瀬くんに近づかないことよ!勿論でしょ?」
黄瀬くんも、こうなることを望んだことではないのに。可哀想だな、黄瀬くんも、彼女たちも。
そんなことよりも、笠松くんはこんなどうでもいい糞みたいな噂を信じているのだろうか。それとも、さっき誰かが言った二股されている、と言う噂に腹を立てたのか。
「そうか。それは無理だ。じゃあ、私はいくぞ」
「はぁ!?なんで無理なわけ?」
「何故そんなことをする。黄瀬くんにでも頼まれたか?」
「頼まれてないわ。けど彼はモデルなの。こういう噂がたって一番嫌なのは黄瀬くんでしょ?」
「ふーん?」
「何よ!」
「お前らは黄瀬くんのモデル≠ニいう職業しか見ていないのだろう?きっとそれは彼が望んだことじゃない」
そんなことをいえばきっと何かしらされると思っていた。実際肩を押され体勢を崩して尻餅をついた。
職業のことをジョブとか言わなかった自分を褒めてあげたい。すごくジョブっていいそうになった。
しかし、肩をあんなに力いっぱい押されるとは思ってなかったな。着地失敗したぞ。手首と足首両方が痛い。面倒くさいことをしてくれるな。
「そ、そんなことないわ!」
「じゃあ、彼のどこが好きなんだ?顔、か?」
「最初は顔からでしょう?誰だって!」
「じゃあ、モデルというステータスか?モデルの彼女と言いたいのか自慢したいのか?」
「っ……」
「君らは一度として黄瀬くんを理解しようとしたのか?モデルのキセリョではなく、海常の黄瀬涼太を理解しようとしたか?」
目の前に立っていた子が座り込んでにこりと笑った。そのまま手が頬に伸びてきて勢いよく振られた。
乾いた音が響く。ニコニコ目の前で笑いながら頬を打たれたのだ。何故そんなに笑っているのか不思議でたまらない。
「いッ…………ッッたぁー」
「モデルのことが好きで、何が悪いの?人のスキは人それぞれよ。顔からの人もいれば性格からの人だっている。あなたが言ってるの、綺麗事だわ」
「確かに、そうだろうな。だけど、君らはきっと一度も黄瀬くんの気持ちになって何かを考えたことはないだろう?」
「もうそういうのほんっとうにうざい!保健室で黄瀬くんとヤったのかは知らないし、家でヤったのかは知らないわ、どうでもいい。でもね、あんたみたいな男女にそういうこと言われるのは一番イラつくのよ!」
もう一発頬に彼女の張り手がヒットする。きっと真っ赤になって腫れる事だろう。痛そうだし、嫌だな。私の手元に竹刀がないことと、それともうすぐ大会前だったことに喜べ。
即ぶん殴ってたぞ、この野郎。
「私はお前みたいな奴が大嫌いだ」
そう言った瞬間防水用のバケツに入っている水を頭からぶっかけられた。正直に言って綺麗だと百歩譲っても言えない水を頭からぶっかけられたのだ。
「最悪……」
「ざまぁみろ!あはははは!」
「おいてめぇら!何してる!」
こういう時に現れるのは反則だと思うんだ。
ねぇ、
「笠松くん……」
鬼の様な形相をしていても、今は君がとってもかっこいいヒーローに見えるよ。
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