台所から再びリビングに移動する。私は自室からいくつかの乙女ゲームをとってきた。皿の片付けを手伝ってくれた彼は聞きたそうな顔をしていたので話の続きをしようと思ったのだ。


「で、これは……」


「私が今までクリアしたゲームだ。全員攻略済みだ」


胸張って言えることではないだろうが。さて、何故これらが必要になったかというとこれといって、必要性は私自身感じていない。ついでに言えばもって来なくとも説明できた。が、持ってきたのは私が持ってきたかった、ただそれだけである。


「これの中に、お助けキャラがいてな」


一つのゲームを手に取る。男がずらりと並んでいてその真ん中に女の子がポツリといるパッケージデザインのものだ。黄瀬くんは興味津々に耳を傾けそのゲームを見る。


「私はそこにいるお助けキャラのような立ち位置だと思った。聞かれたことに答えて、主人公の恋を応援する、そんなキャラ」


何でもかんでもゲームに例えてしまうのは悪いくせしだと自負している。それは、仕方が無い。もうそれが定着してしまっているのだから。


「だが、私は思ってしまったんだ。そんなに相手キャラの情報を知っているのならばその相手キャラのことが好きだからそんなにたくさんの情報を持っているんじゃないか、と」


そんなの、屁理屈だってこともわかってる。ゲームの中の話で、全部プログラミングされているだけだということも。
それでも、私はこう考えてしまいたかったのだ。元から好きなのだから、仕方ないじゃないか。ただ、恋より友達を選んだだけだ、と。


「きっと先輩は元から笠松先輩が好きなんスね」


「え?」


「だってその友達に笠松先輩のこと教えられるほど先輩は笠松先輩のこと見てきたんス。だから、お友達にも笠松先輩のこと教えられた。違うっスか?」


「……たぶん、そうだよ」


「そうっしょ?えっへへ、とりあえず先輩は笠松先輩に何とかして想い伝えて、遠距離頑張るっス!」


「いやいやいや、付き合う可能性なんて低いものだ。それに、遠距離とかあまり好きではないな」


拳をぐっと握り目をキラキラと輝かせる黄瀬くんの頭に手を置いて再びくしゃりとなでた。もう抵抗を諦めている彼は大人しくされるがままである。


「あ、新選組?」


「ああ、そうだよ。これは面白かった。最初、どれだけ頑張っても全て沖田総司にいってしまってね。困ってた」


「へ〜。ちなみに、どれっスか推しメン」


「この黒髪ポニーテルの紫の瞳のイケメン」


「おーでも怖そうっス」


「土方さんだからな。黄瀬くんはこの人に似てるな。茶髪ポニーテールの緑の目をしている人だ」


「え、何で?」


「ワンコっぽいんだ。彼も」


何て、乙女ゲーム片手に二人して笑う。私はこの人に似てるだとか黄瀬くんはこの人だとか。終いには森山くんや、笠松くんの話までしだすものだから横隔膜が痛かった。笑いすぎて。
どの人がどの人に似ているだとかで言い合い、とても面白かった。引越しのこととか恋愛のこととか全て忘れられた。


「黄瀬くん、今日は本当に有難う」


「いや、俺もすんません。なんか、上がっちゃって」


「構わないさ。楽し……」


「先輩?何見て……笠松、せんぱ」


黄瀬くんの後ろに見えたのは目を見開いて突っ立っている笠松くんであった。
突っ立っているだけなら良かったが、どこからどう見ても不機嫌で怒っているように見える。それは、黄瀬くんに対してなのか私に対してなのかわからなかった。


「……あ、の」


「黄瀬……こいつん家で何やってたんだ」


「いや、それは、お話し?をしてたんスけど」


「本当だろうな」


黄瀬くんに対してなのか私に対してなのかなんて言っている場合じゃない。多分私たち両方に怒っている。それもかなり。


「そんなことより、笠松先輩なんか敷島先輩に言う事とかあったんじゃないんスか?」


「あー、もういいわ。帰る」


チラリと見えたその笠松くんの目がとても冷えきっていたこと。それにゾッとした。やはり私はなにかしてしまったらしい。
一体何故笠松くんが怒っているのか理解不能だしこういう態度は苦手だ。


「か、笠松くんっ!」


「?何だよ」


「ま、まままた明日!」


「……ぶはっ。吃り過ぎ。またな」


良かった、笑ってくれて。




でも結局、次の日笠松くんには無視されてしまった。何を言っても話しかけようとしても無視。解決はしていなかったらしい。やはり、何かに激怒して話を聞いてくれさえもしない。
それに、女子からヒソヒソと何か陰口を言われている、そんな気がした。
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