黄瀬くんに謝罪メールを送ったその二分後、返信が来た。彼は暇人なのだろうか。仕事も大丈夫なのか?いやまぁ、テスト期間なんだし仕事も何もないだろうが。
「笠松くん」
「あー?」
「クレープ、付き合ってくれ。奢るよ」
「んー。てか、奢らなくていいから」
「そうか?なら、お言葉に甘えるが本当にいいのか?」
いい、それだけ言って教室に入って行った笠松くん。私も教室に入り、帰る用意をした。
「ねぇ、杏奈」
「っああ、智香。帰ってるのかと」
何故今一瞬後ろめたく思ったんだ。
「何で、あんなに仲いいの?」
「え?」
「可笑しいよ。杏奈は私に協力してくれるんだよね?なのに、何で……あんなに笠松と仲いいの?」
一瞬怖いと思ってしまった。そして、それと同時に何故そんなことを言われなくてはならないのかと。
ああ、女は汚いな。自分も同じ性別だと思うと寒気がする。
友情よりも女は恋心を取るのだろう。
「安心しろ、私達は友達として、仲がいいだけだ。それ以上ではない。多分笠松くんと仲がいいのは私が女らしくないからだ。だから」
「そんなの!信じられないよ……だって、笠松、杏奈を見る目だけみんなと違うよ」
「いや、だからそれは同じ男目線としてだな……」
ポロポロ目の前で涙を流す友人。ああ、こんなにも綺麗に素直に涙を流すのだな。女の涙は男を落とすのに役に立つというが、綺麗だからだろうか。怒りで泣いているのか、悲しくて泣いているのかはわからないが目の前で泣かれるとどうしたらいいのかわからない。背中を摩る年齢でもないだろう。
「え、と」
「もう、いいよ。ごめん、泣いて」
「いや、私も済まない」
何故謝らなくてはならないんだ。
「私、帰るね」
そう言って教室家から飛び出してクラスに戻ったのだろう。クラスには笠松くんがいるが、彼は泣いている彼女を見てどうするのだろうか。彼女は、智香は彼に泣きつくのだろうか。付き合うのだろうか。
「だろうか、ばかりだ。嫌になる」
携帯に表示された言葉に眉をしかめた。
《ごめん、クレープ行けなくなった》
コメントの上に表示されている名前は笠松幸男であった。
あー、えー、そんな言葉にならない声を出しつつ返信する。
《了解》
既読がついたのを確認して携帯をポケットに突っ込んで教室から出た。隣のクラスが気になって、少し覗けば後悔した。
抱きしめられて泣いている智香がいたから。それと同時に私もアレされたなぁなんて思いながら気づいた。
「結局私は報われないモブAか」
よく小説や漫画の中にいる、報われない、モブ子である。
好きなのか
呆然と立ち尽くしてから、我に帰って歩き出した。引っ越したくなかったのに、ものすごく引っ越したくなった。一体いつになるのだろうか。もう、いいや。きっと、笠松くんの隣にいるのは私じゃない。
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