イライラした。黄瀬や森山と楽しそうに話してる敷島に。だから、半分八つ当たりもあった。それでも、そんな顔しなくてもいいじゃねぇか。放っておけ、なんて出来ねぇから追いかけてんのに何だよ、それ。俺が何かしたのかよ。
「それは俺のセリフだよ!お前なんなんだよ!見ててイラつく!もうそんな顔すんなら俺の前に現れんな!!!」
そう言ってすぐに後悔した。俺は敷島追いかけてただ俺を避ける理由を聞きたかっただけなのに、八つ当たりして怒鳴って。背を向ける前に見たアイツの顔はあの日、泣いていた時の顔に酷似していた。
「ま、待ってくれ!笠松、くん……」
どうやって謝ろうとか考えて悶々してる時にこいつ本当に何だ?腕掴んで、俺のこと引き止めて。声は段々しぼんでいくし。
「な、何だよ」
俺、我慢しろ。冷静になれ。触られてるからって振り解こうとするな。慣れろ。
「ああ、すまない。触られるのが苦手だったな……」
「お、おう」
いつもの声音よりも幾分かトーンの上がったその声。でも、覇気を感じられず少しだけ笑ってしまう。いつもは自信がありそうな話し方なのにいつもよりも元気がなくて、死にそうな声。
「え、えっと、その」
「……何だよ」
「いや、だから、あー」
「うぜぇ……」
「そ、そんなこと、言わないでくれっ」
「てか焦れったい」
「す、すまない」
「何だよ。お前あれか。あの日のことで顔合わせるの恥ずかしかったとかそんなどうでもいい理由で避けてたとか言うなよ」
そういった後に確信した。敷島は体を揺らし、そして目を逸らしたのだ。俺にとってのどうでもいい理由、でこいつは俺を避けていたわけだ。
何も言わないのかと思いきや口を窄ませ呟いたのだ。
「ど、どうでもよくないもん……」
一瞬敷島が本当に女に見えた。
「もん、じゃねぇよ。もん、じゃ」
「う、うるさい……」
俯けられたその顔はどうなっているかこちらからは伺うことができないが、きっと泣きそうな顔で口を窄めているのだろう。
「私にとってはどうでもいくないんだ」
「何だよ、女だし泣いても」
「それが、嫌なんだ。女だから女だからと言われて」
そう言った敷島の顔は複雑そうに歪んでいた。泣きそうな顔して、眉間にシワ寄せて。こいつは何が言いたいんだろうか。俺には全くわからない。俺はこう言う奴が苦手だからあんまり近寄ったりしねぇし。焦れったいし見ててはっきりしろよ、と怒鳴りたくなる。でも、それをしたらこっから何も進まないことくらいわかってる。コイツから言ってくれなきゃ俺も何もわかってやれない。だから、我慢すればいいんだろうが……。
「ウジウジすんな」
「わかってる!でも、あの……その、だな」
「ッチ」
「!!!?」
焦れったくて、敷島の両頬を挟み込んで俯いているその顔を上げさせた。音が結構大きくなったから、然程痛くはないだろう。
「な、何して!」
「ああ?黙ってろ。いいか、お前はどう足掻いても女だ。その事実は変わんねぇよ」
「…………ぁぁ」
「何があったかなんて興味ねぇし首突っ込むつもりもねぇよ。でもな、泣くくらいいいじゃねぇか。恥ずかしい事なんてねぇよ。悔しければそりゃ涙は出るし悲しければ出るもんは出る。んなもん、しかたねぇよ。泣きたくなくても出るように人間できてるんだ」
そんなの、俺だって経験済みだ。俺が泣くことでもねぇのに、泣いた。きっとこれからだって壁にぶち当たればそんなことも起きるだろう。それは、仕方のないことだ。
「泣きたくないって思ってて、それを他人に見られたくもないって言う気持ちもわかる。それについては、謝る。見て悪かったな。見られていいもんじゃねぇわ、あれは」
「笠松くんが悪いわけじゃないんだ!ただ、その……恥ずかしくて」
「悪かった。でもな、それを理由にその見た人間を避けるのはいけねぇコトだろ。理由も何もわかんねぇのにいきなり避けられて、胸糞わりぃ」
「す、すみませんでした」
「おうっ」
「それで、笠松くん。そろそろ……」
「ああ?ッ!?!?!?!?ぬぉわぁぁぁあ!!?」
我に帰ると、目の前に両頬を挟まれた敷島の顔があるわけで。しかもその挟んでいるのは俺の手。
勢い良く離して敷島から離れる。それももう、背に壁がつくぐらい。離れたのは約二、三mだろう。
「お、おう、平気か?笠松くん」
「いや、その!悪かったな!だから、あの!」
「さっきまでの笠松くんはどこに行ったんだ?」
「ああぁあの、だな、えっと、」
「っはは、ふははっ」
「……は?」
「いや、今までの自分が馬鹿らしくなってな。今日からまた、よろしく笠松くん」
「あ、ああ」
笑った顔をした敷島を見てコイツはこんなふうに笑うやつだったと思い出すと同時に胸が暖かくなった。
それと、敷島の顔が近かったせいで顔は熱いし、頬を挟んでいた手も熱い。
やっぱり女ってのは苦手だと、再認識した瞬間だった。とりあえず、心臓うるせぇ……。
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