いきなり出てきて、黄瀬引っ張ってって、何なんだあいつ。


「か、笠松」


「ん?ッッ!?!?」


控えめに呼ばれた名前に振り向けば、多分同じクラスの名前は……わかんねぇ。とりあえず同じクラスの女子が立っていたのだ。そう、女子。


「な、何だよ」


「いや、あの、ね」


早くして欲しい。何か用件があるなら。失礼だが早く離れたいし、黄瀬たちの方に行きたい。というか、黄瀬と敷島は何してんだ。滅茶苦茶気になるじゃねぇか。


「だから、何だよっ」


「あのね、あの、その、ああああの!」


「おう!?何だよ……マジで」


「あのクレーンの人形をとって欲しくて!」


「何故俺に頼む。敷島に頼んだら良かったろ」


「杏奈は黄瀬くんに用があるって……」


とりあえず、その人形を取れば離れてくれるのか。そう思えば即行動。金を渡されてそのクレーンの前に立った。


「も、もうちょっと右!」


「は?あ"」


「あー、」


落胆した声出すな。こちとら早く終わらせたいんだよ。ほっといてくれよ。もうやめてくれよ。離れてくれ。


「じゃあ、はい!もう一回!」


そんな風に多分四回目で取れた女子が好きそうなふわっふわした人形。ありがとうと言われたあとに電話の番号聞かれてもう早く離れたいが故にすぐに承諾して教えた。


「ん、じゃあこれで」


「あ、うん。また、明日!」


「ああ」


そう言えば、俺敷島の電話番号とか知らねぇな。後で聞くか。
人が異常に集まっている中心を目指せば黄瀬がいると思ってた。それに、敷島なんてもう帰ってるとも思ってた。ただ、あいつらが別れてると思ってたのに違った。


「連絡するんで連絡先用に番号下さい」


そういって黄瀬と笑ってる敷島の腕を無性に取りたくなった。ただただ、黄瀬とケー番交換してるだけだって言うのに、すっげぇ黄瀬が今ウザく感じてる。


「元気なことで。いつでもかかって来い!次はコンビニアイスでも賭けてやるか?」


携帯の画面を見てクスリと笑った敷島は腕まくりをして携帯をスカートのポケットにしまった。


「もういいっス!!」


「何だ、ハ○ゲンダ○ツ買ってもらおうと思ったのに」


「無駄に高いの選んでくるこの人!鬼畜!」


「そりゃ、タダだからな。奮発してもらおうと思って」


「何の話してやがる?」


本当に黄瀬をしばき倒したくなり、控えめに背中に一発叩き込む。


「ぴょっ!?」


「ぶはっ!何だその驚き方は!?あは、あははは!」


「だ、だって痛かったんスもん!」


「も、もん!もんとか言うなよ、黄瀬くん!余計に、あはは!笑えて……くるッからッ」


腹を抱えながら大笑いをし始め、止まらなくなった敷島は手を前に突き出して待ったの姿勢を取る。が、ツボにハマったのか笑いは収まらず、三分ほど笑っていただろうか。ようやく笑いが止まった頃には目に涙を浮かべ呼吸を荒くしていた。


「お前はアホか」


「笠松くん、君が悪いんだぞ。黄瀬くんを叩くから。あー、腹が痛い」


「ぴょ、なんていうと思わねぇよ。誰も」


「まて、今その言葉を言うな。笑えて、くるっ」


「先輩、痛いじゃないっスかぁ」


「黙れ。そして、敷島も笑い止めろ」


「ははは、無、無理!」


「シバいたら治るのか?」


「痛いからそれだけ早めてくれ 」


人混みから抜け出し、一時ベンチに腰をおろした敷島。黄瀬はカバンの中からペットボトルを取り出しそれを飲んでいる。


「黄瀬、今日お前飲みもん忘れたんじゃなかったか?」


「ああ、敷島先輩がくれたんス」


お前ら、随分仲いいじゃねぇか。俺が焦ってるあいだに何してたんだ。


「あ、そういや先輩」


「何だよ」


「次、休みっていつっスか?部活ない日」


「ああ?んなもん、来週から一週間ねぇだろうが。テスト週間だからな。何でだ?」


「敷島先輩とクレープ食べに行く約束したんスよ」


無性に殴りたくなって黄瀬をしばいた。お前ら、本当に俺のいないあいだ何してたんだよ。
こう、無性にイライラする。黄瀬が女子に手振ってる時とはまた違うイラつき。
そのイラつきの正体が分からず、余計にイライラした。


「ふーん、俺も行く。黄瀬、奢ってくれ」


「へぇ!?なんで笠松先輩まで来るんスか」


「何となく」


「もしかして敷島先輩と俺が行くのが気に食わないとか?」


「アホか。んなわけねぇだろ」


「はぁ、何の話をしてるんだ。ようやく笑いが止まったぞ」


今までお前一言も喋らず俯いてたのはまだ笑ってたからなのか。
顔真っ赤にして、目に涙浮かべて、肩で息して。


「!」


「笠松くん、顔色が悪いが……」


「ほ、ほっとけ!」


「ホントっスね〜顔赤いっスよ?」


こいつもそういえば女子だったと、改めて自覚した。そして、何で俺はコイツと平然と喋れるようになったんだ?慣れ、か。いやでもまだ、触られるのとか無理だし。慣れだな、こりゃ。


「はぁー……」


「どうしたんだ?笠松くん」


「いや、慣れるために話しかけりゃあいいのかなぁ、と」


「何にっスか?」


「女」


その単語を発した瞬間黄瀬と敷島が顔を見合わせハイタッチしたものだから再び黄瀬を殴るのであった。
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