バスケ部の主将で、女の子が苦手。そんな彼。
私は智香に提供できるほど情報を持っているわけではない。知り合ったのだって最近で、三年間も同じ学校に通っていて家が近いと知ったのもつい最近。あと、好きな食べ物は肉じゃが。触るのも近寄るのも可愛いとかいうのもダメ。負けず嫌いで、責任感を人一倍感じる人。それでいて優しくて兄貴気質。ちょっと手が早いけど、そういうところを養えるほどの寛大な心の持ち主。
もっと知りたい、智香の為に。


本当に……智香の為に?


「で、智香。運良く笠松くんがいるんだから君は彼と二人きりになるべきだと私は思うのだが」


「ええ!?ハ、ハードル高くない?」


「いや、私と一緒に笠松くんを見てるのは意味が無いからなぁ」


クレーンゲーム越しに笠松くんを見つめる智香は恋する乙女そのもので、頬を染めて笠松くんをチラ見している。
さて、笠松くんと二人きりにするにはまず笠松くんの隣に立っている黄瀬くんをどうにかしなくてはならない。


「とりあえず、黄瀬くんを私は引っ張っていくから智香は笠松くんと二人きりになるんだぞ。いいな」


彼女の背中を押し、私は笠松くんと黄瀬くんに近寄る。私にできる最低限のことをしよう。


「やぁ、笠松くん、黄瀬くん 」


「あ、敷島先輩じゃないっスか!またゲームしに来たんスか?ほんっとゲーム好きっスね」


「は、コレで頭いいんだからイラつくな」


「え、笠松くんそんなこと思ってたのか。傷つくぞ」


「へーへー、悪かったな」


「ちっとも悪いと思ってないだろう?まったく……それはそうと笠松くん。黄瀬くんを借りるぞ」


体を触られるのは流石に嫌だろうと肩にかかっているスクールバッグの紐を掴み引っ張った。
私の行動に黄瀬くんは勿論笠松くんも驚いていた。


「え、ちょっ!?」


「事情は後で話すから」


そう伝えると渋々という顔で頷いてくれた。案外黄瀬くんって空気読めるんだな。失礼だが。
ちらりと先ほどのクレーンゲームのほうを見ると手を合わせて頭を下げている智香の姿が目に入った。黄瀬くんもそれを見て理解したのだろう。私を見て笑った後自分で歩く意志を持ってくれた。今まで私が引っ張っていたからな。
健闘を祈るぞ、智香。


******


「で、」


「はい」


「あ、ありがとございます」


「いや、こちらこそ済まないな」


ゲームセンターから出て自販機の前まで歩いた。勿論黄瀬くんに奢るためだ。自販機のもので悪いが。
でも彼が選んだのは意外にもミネラルウォーターである。一番安くて助かった。なんでも水が好きだとか。
隣にあるベンチに腰掛けてプルタブを指で押し上げる。


「で、とは?」


「あの、美人さんって先輩のお友達?」


「ああ、智香のことか。そうだ」


「そっスか」


それから智香が笠松くんのことを好きだということ。二人をくっつけたいということを伝えると黄瀬くんは楽しそうに笑っていた。


「それって、笠松先輩の女嫌いが如何に早く治るかにかかってるんじゃないっスか?」


「そうだ。彼は案外やるときはやる男なんだが……女関係になるとやはりダメだな。シャイすぎる」


それから笠松くんについて話、智香もどんな子なのか話した。ずっとベンチに座っているのも何なので再びゲームセンターの中に。


「さて、黄瀬くん勝負しようか」


「いいっスね。負けねぇっスよ?」


「おや、随分格下に見られてるね。じゃ、あれをしようか」


笠松くんと初めてやったあの銃撃ゲームである。さて、二人とも今度は近くにあるクレープを賭けてコインを入れた。




「ちょ、なんなんスかホント……」


年長者を下に見るからいけないんだ。
少しだけ人だかりができているその中心にいるのは勿論、私たちである。3勝0敗、黄瀬くんではなく私が。


「ホント強すぎ」


「ははは、だろう?伊達に週3でゲーセンに通っているわけじゃないぞ」


「来すぎっしょ」


「よし、クレープはまた部活がない日に奢ってくれ」


「しゃーないっスね。約束だし」


「当たり前だろう?」


「てか、負けないってわかってて勝負挑むとか、汚いっスよ〜」


「なんとでも言ってくれ」


笑いながらゲーム機の前から離れる。携帯を見ればありがとう、という文字と番号交換までに至ったという文が送られていた。番号……私はそう言えば笠松くんの携帯番号を知らないなぁ。


「連絡するんで、連絡先用に番号下さい」


「わかった」


メールアドレスを渡して黄瀬くんからの連絡を待つ。そして、来たそのメールに少しだけ笑ってしまった。


『次は勝つっスよ!』


「元気なことで。いつでもかかって来い!次はコンビニアイスでも賭けてやるか?」


「もういいっス!!」


「何だ、ハ○ゲンダ○ツ買ってもらおうと思ったのに」


「無駄に高いの選んでくるこの人!鬼畜!」


「そりゃ、タダだからな。奮発してもらおうと思って」


指をこちらに向けてブンブン振っている黄瀬くんが落ち着いてから、楽しそうに笑うものだから私も釣られて笑った。

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