朝練が終わり、昼まで平凡に席に座り授業を受け、昼飯を取ったあと、森山くんが私の方を叩きため息をついたのだ。


「なあ、敷島」


「おや、森山くん。どうかしたのか?」


「笠松が再起不能だからどうにかしてくれ」


「は?」


森山くんがいうには、朝練に顔を出せば我らが部長笠松幸男が凛々しい顔をしてボールを構えゴール下にいるではないか。シュートを打てば少なからずスタメンは外すことのない距離。なのに、彼は外すのだ。赤面しながら。


「つまり私のせいだと?」


何度やっても何処から打っても入らず、いきなり雄叫びのようなものを上げるというのだ。理由を聞くと私の名前をポツリと言ったものだから責任をとれと。


「いやいやいやいや、知らないぞ私は」


「頼む!」


目の前でパンッ、と手を合わせられればたじろぐ。森山くんの私の中での認識は残念なイケメンだ。もう一度いおう。残念なイケメンだ。そう、残念なイケメンだが顔はイケメンなのだからこうやって至近距離で頼まれると断れなくなる。これが面食いのサガだ。


「か、笠松くん」


「!!?」


そんなにあからさまに体を揺らさなくてもいいだろう。やはりその反応は傷つくぞ。並の女子なら泣きそうに顔を歪めそうだ。チラリとこちらを見たくせに何で目が合った瞬間逸らされる。


「君は何をして」


「く、来るなぁぁぁぁぁあ」


あ、今何かブツンッて切れた。
脱兎のごとく逃げ出した笠松くんに流石に怒りを覚え私もそれを追うかのように全速力で走り出した。剣道部部長を舐めないで欲しい。夏場、どれだけ暑い中ですり足で暑い道着を着込み、さらにその上に防具をつけているのと思っているんだ。そこらへんの女子高生とは違うぞ。


「待てやぁぁぁぁああああ」


誰かにに何してんの、と言われたが今のところ子供ができるようなことができない笠松くんを叱るのが先なのだから。



*****


「ハァッハァッ」


「お前、女子、だよなっ!?!?」


「真夏の中、道着と、防具を身につけて、竹刀を振っているのだからっ体力は有り余っているんだっ」


階段の踊り場でゼェハァ言っている姿はなんとも滑稽だろうか。通行人の目が痛い。そして走ったせいで昼に食べたものをリバースしそうなのだが。


「あれ、先輩何してんスか?」


「黄瀬……」


「黄瀬くんじゃないか」


階段を降りてきたのだから移動教室だろう。宇宙の写真が乗っている教科書からして化学のようだ。モデル、もとい黄瀬くんは私を見て少しだけ笑を向けた。
黄瀬くんから笠松くんに目を向けると眉間にしわを寄せている。ちなみに舌打ち付き。


「え、なんで舌打ち!?……まぁいいや。先輩もう部活、平気そうっスね」


「は?」


「スッキリしてるんで。顔が」


ヒラリと手を振って彼は階段を降りる。流石モデル。いや、関係あるのかは知らないが降り方が綺麗だ。手摺を持ってゆっくり歩いてくるところとか。
いや、私はいつも急いで移動教室をするものだから一段飛ばしで降りて、4、5段目で飛び降りるものだからそういうものが少し珍しかっただけかもしれないが。


「というか、先輩だったんスね。校内走り回ってたの」


「何が」


「女嫌いの笠松が女と全力疾走してる〜って、3年の先輩数人が言ってたんスよ。しかも女子」


「……そーかよっ」


私を見て舌打ち。酷い。


「あ!忘れてた!おい、笠松くん。目が合った瞬間そらす、話すときは相手の目を見ない。たとえ女嫌いでもそれは相手に失礼だ。直すべきだよ」


「し、しかたねぇだろ」


「ほう。君は失礼なことをしてもそれは、事情があるから仕方ねぇというのか?そんなの、世の中で許されると思っているのか?それに、社会に出た時、女から酌をもらった場合君はどうするんだい?」


「うっ」


黄瀬くんは仕方ないから無視させていただきます。それに、私は笠松くんと話すために追いかけたのだから何か言われても君は後回しだ、黄瀬くん。悪いな。


「ほら、なんとか言ってみたらどうだ?ほれ」


「う、うっせぇよ!」


「ぷぷっ、笠松先輩が言い負かされてる」


「黄瀬ぇ、笑ってんじゃねぇよ!」


「イテッ、先輩痛い痛い痛い!!!」


「八つ当たりしない!」


「ぶはっ、母ちゃん気質っスね!」


ゲラゲラ笑っている黄瀬くんは笠松くんに叩かれ涙目で再び痛いと言いながら笑っていた。彼は笠松くんが大好きなんだなと見て取れた。


「はは、そうか?」


「そうっスよ。笠松先輩をゲームに巻き込んだ人っスよね?確か、敷島先輩」


「ああ。覚えてもらえて光栄だ。3年の敷島杏奈だ」


「黄瀬涼太っス。宜しくお願いします」


律儀に頭を下げた黄瀬くん。握手を交わした後笠松くんを見る。もちろん、私の腹の虫は収まっていないのだから睨みつけるようにして。


「で、笠松くん」


「……何だよ」


「ごめんなさいは?」


ようやく謝ったのは自教室に戻り、別れる瞬間に言われたのだった。
やはり彼は可愛い。それより何故部活が出来なくなったんだ?そんなに私は何か彼に言ったのだろうか。うーん、やはり何もわからない。
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