昨日は笠松くんに送ってもらって帰った。笠松くん呼びに戻したのは違和感がかなりあったからだ。そして、笠松くんによると負けてしまったらしい。誠凛さんに2点差で負けたと教えてくれた。かなり悔しかったと思う。だからこそ、何も言えなかった。私はバスケなんてしたこともないし興味もない。だから半端なことだけは言いたくなかったし言えなかった。


「ああ、笠松くん。おはよう」


「っはよ」


「早いな」


「朝練、あっから」


「そうか、私もだ。珍しく早く起きれてな。久しぶりに行くよ」


隣に立ってもビクつかなくなった彼はかなり成長しただろう。取り敢えず、近寄りすぎると発狂しそうな彼は大人しくなった。こちらが話していても顔を見ないそれも、いつか治るだろうと信じている自分がいる。正直、本当に聞いているのか、こいつなんて思ったりしたこともあったが、相槌を打ってくれたり、また、ごく稀に自分の話をしてくれているのだ。少しばかり待ってみようと思う。


「笠松くん」


「んだよ」


「好きな女の子はいるのか?」


「げぇっほ!ごっほ!あぁ?なななな何言ってんだよ!」


「何だ、もう一度言った方がいいか?好きなお」


「だぁぁぁあ!いわんでいい!」


「ははは、相変わらず照れ屋だな。顔が赤いぞ、笠松くん」


結局聞き出せぬまま、学校についたわけだが。そういえば私は智香に怒られないだろうか。お母様のお誘いとは言っても、好きな人の家に上がられてしまえば怒るかもしれないな。
黙っておくのが一番だろう。


「で?」


「お、お前に関係ねぇだろっ」


そっぽを向き少し早足になる笠松くんについて行く。


「ほう、その反応。いると見ていいのか?」


「ああ、もう!勝手に言っとけよ!」


「プッ!あはははは、いじめすぎたか?済まない」


そう言ってやるとさらに顔を赤くして流石に追いつくのに必死になるほどの早足になった笠松くん。非常に辛いぞ。こちらは女であちらは男。運動部だからといって笠松くんに追いつけるはずもなくもう、走っている、という表現が似合うが……行ってしまった。


「うん、今度からは虐めないでおこう」


その結論にたどり着いたのだった。


****


その日はごみ捨ての日で、まぁ、ありがちな告白の現場に居合わせたわけだ。ここがああなってあなたのことが好きなの付き合ってください、ありがちなその言葉を言ったその相手はなんと笠松くんではないか。


「俺は……」


あ。


「え?」


ゴミ箱が手からずり落ちて床にゴミをまき散らした。そして、振り返った時に見えたその女の子は二年生だろうか。ふんわりとカールした髪の毛に二重の目。まぁ、世間一般で言う可愛い子だろう。
笠松くんのえ、に中断してしまった告白。しかし、その告白もすぐに終わってしまった。


「今部活で手一杯だから、付き合えない。悪い」


そのまま女の子は泣いてどこかへ。笠松くんはこちらに鬼のような形相で向かってくるではないか。怒られるのか。怒られること覚悟で目を固くつむった。


「……何してんだ。早く拾うぞ」


「!……怒らないのか?」


「何にだよ」


しゃがみこんで撒き散らしたゴミを拾い始める笠松くん。私も慌てて手を伸ばした。思っていたよりも紙類が多くて拾いやすかった。あとティッシュ。少し拾うのには抵抗があったが笠松くんがトングのようなものをとってきてくれてそれで拾っていった。


「その、すまない」


「ん?」


「あまりこういうのを見られるのは好かないと聞いたことがある。笠松くんも嫌だったろう?すまない」


確かに、そう返ってきて息をつまらす。
ゴミを拾い終え手に付いたゴミを払うように叩く。顔をあげた瞬間笠松くんと目が合った。それが何だろうか、ものすごく恥ずかしくなって顔をそらした。何だ、何だ、何だ、何だ、何だ、何だ!?!?笠松くんってこんな顔だったろうか。


「笠松くん、」


「ん?ッッ!!?」


トングでは拾えないであろうゴミに手を伸ばした時に笠松くんと手が当たった。その瞬間彼から聞こえた声にならない悲鳴。息を飲み、その吸い込んだ音だけがその場に響いた。


「……な、何だよ」


「いや、その、さっきは」


「お前は何も見ていない!」


遮るかのように大きな声を出し、いや、実際に遮られたのだが、真っ赤な顔でこちらを睨んでくるものだから目を丸くすることしかできなかった。


「忘れてくれ」


その言葉に頷く。そうすれば屈託の無い笑顔を珍しく向けてくれたのだ。それが嬉しくて笠松くんの頭に手を乗せようと伸ばす。だが、それも綺麗に叩き落とされてしまった。


「俺、ホント女の子無理で……どうしたらいいんだろうな」


「まぁ、まず君には克服することすら困難に見えるからね」


その言葉に肩を落とす笠松くん。私にだってわからないのだから。


「それじゃあ、俺行くから。そ、その、さっき見たことは本当に忘れろよ!」


「ああ、すまなかったな」


顔を少しだけ赤くして、その場を去っていった彼はかなり早足だった。きっと、部活だろう。私も部活に行かなくてはならないが狩り≠ノ行きたい年頃なのだ。今日は、確か記憶をたどってみるとゴリラとご対面のはずだ。二巡目なのでまだ、不確かだが。


「ようやく見つけた!杏奈、今日こそは狩り≠オてないで部活来なさいよね」


「おや、智香。残念ながら今日はクラスの吉田くんと約束をしているんだ」


「いや、知らないわよ。ゲームより部活優先でしょう?」


そのもっともな言葉に頷く他なかったのだった。
仕方ない、吉田くんには悪いが狩りは諦めるしかなさそうだな。連絡を入れると部活がない日にまた、と連絡が来たので小さつガッツポーズをしたのは秘密だ。だが、智香に見つかって拳が頭の上に降ってきたのだった。
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