その後、笠松くんたちの試合がどうなったかなんて知るよしもない。私は人混みで人酔し て気持ちが悪くなって帰ってきたからだ。


「翔太ー?……まだ帰ってないのか」


玄関に上がった瞬間インターホンが鳴る。リビングまで行って相手を確認するのが面倒臭くてそのまま玄関のドアを開ける。


「えっと、どちら様で?」


門の外に立っているのは綺麗な女性。年齢的には母親と同じくらいだろう。


「ああ、敷島さんですか?先日は幸男がお世話になりました」


「幸男……笠松くんのお母様?」


「ええ。そうです」


物腰柔らかそうなその人は笑顔で私に向かって頭を下げる。笠松くんの母親だということ、この間の肉じゃがのタッパーを返しに来たこと。


「この肉じゃが、美味しかったわ。私より上手いんじゃないかしら?」


「そんな、経験の差が……!」


「そんなことないですよ」


ここで話すのも何だし、そう言って家に上がってもらおうとしたら反対にうちに来て欲しいとのこと。


「ご馳走するわ」


と言われたのだ。ここは行くしかないだろう。
翔太はどうせ昨日残した惣菜とハンバーグを温めて食べてもらうつもりだったし万が一に遅くなっても平気だろう。
家に戻り鍵を閉めて笠松くんのお母さんの後ろに付いていった。


****


「ただいまーって誰か来てんの?ッッ!?!?」


「お帰り、笠松くん」


「は!?え?何で、んん!?」


それ、パニックになってるのか。
んん、って何だよ。本当に彼には嫌われてしまっているな。というか、シャイなだけなのだろうが。


「お帰り」


「母さん、コイツ何でいるんだよ!?」


「あー、うるさいうるさい。何であんたはそんなに煩いの?失礼なこと言って……!ごめんなさいね、杏奈ちゃん」


「あ、いえ。平気です」


いや、さり気に悲しいっちゃあ、悲しいんだが。
……ああ、彼は私を女だと思っているからこういう対応をとってしまうのだろうか。いっそ男に産まれたかった。そうしたら、こんな口調に自然になっていただろうに。


「……いや、まぁ、ゆ、ゆゆゆ、ゆっくりしてけよ」


そう言って階段をかけ上がって消えてしまった笠松くん。


「彼は何故あそこまで女性を嫌いに?」


「……わからないのよねぇ、私達にも。むかしはけっこう普通だったと思うんだけれど……家族とか以外はからっきし。ぜんぜーん駄目よ」


母親でもわからないのか。……うん、直しようがないな。克服してもらうしかなさそうだ。智香が笠松くんのことを好きならば、二人でゆっくり克服していくというのもアリだろう。
だが、まずはどうやって二人をくっつけるかだな。


「笠松くんは」


「ここはみーんな笠松よ。この家にいる時ぐらい名前で呼んで」


「その、幸男くん?は好きな子とかいないんでしょうか?」


ここは、友人のために一肌脱いでやろうじゃないか。そう思ったが、やはりそんな話は聞かないと言う。
私の中で結論が出たのだが笠……幸男くんはその、ホモ、というものなのだろうか。いや、だって、女子が嫌いだし男のような私としか話さないのはやはり怪しい気がするんだが。


「幸男くん、晩飯だ。お母様が降りて来いと言っていたぞ」


「わ、わわわわかったからっ」


「待ってるぞ。それと、試合お疲れ様」


階段を上がってすぐの部屋をノックすると案の定そこは幸男くんの部屋のようだった。


「見てたのか?」


「少しだけな。先、下に行ってるぞ」


おう、その少しだけ元気のない声を背に階段を下りた。
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