私にリズム感があるか?と聞かれればすぐに答えられる。

―ない。皆無だ

剣道をリズム感がなければできないと言ったバカがいた。そんな奴はすぐに叩いたが。
そんなわけ無いだろうが。剣道をリズム感で片付けられたのにイラッとしたのだ。

それが、今日だ。


「ヤァァァア!!!」


何故、そんな言葉で片付ける?
威嚇しながら相手の竹刀の鋒を弾く。静かに、静かに、威嚇する声しか響かないその場。たまたま今日は練習試合が組まれていた。そこで聞いたのだ。先程のリズム感がうんたらかんたらと。


「小手面!!!」


「面胴!」


腕を引いて首を傾ける。フェイクとして面を入れるふりをして面を守るために腕をあげてガラ空きになった相手の胴に竹刀をいれる。
しかし、審判の赤旗は未だに上がらない。どうやら少し入りが甘かったらしい。
距離をとってまた威嚇の連続。


「面!!!!!!!」


鍔迫り合いをし、押して、そのまま面を入れる。一旦下がり、距離を置いてから再び面を入れようと腕を上げる。


「胴!!」


生憎私の得意技は胴なんだよ。


「一本!」


結局喉垂れでもう一本取った。イラついていた私はいつもよりも早く終わった試合にスッキリして面を取り外す。
勝った時の爽快感なんて、何かと比べても比べ切れない程気持ちがいい。


「部長ー!お疲れ様です」


「みんなもお疲れ様。ほら、姿勢正す」


剣道は基本礼儀正しく、が大切だ。だから、試合前にも後にもちゃんと作法がある。
まぁ、それもあって、ついでに最終的にも、っていうことでやる。全員で正座して頭を下げ声を揃えて面の前で一列に並びそしてようやく有り難うございました!と大声で言うのだ。


『有り難うございました!』


****


「……ん?」


早めに終わった部活。バスケ部の前を通ると人だかりが出来ていた。何かと思って覗いてみると真剣な表情をして何やらこちらも練習試合をしているらしい。笠松くんが指示を出していた。


「おおー……すごいな」


いまいちバスケ以前に剣道以外の運動をしたことも、興味のかけらもないのでこうやって見るのは初めてだった。


「っ!!?」


その中で一人の子が黄瀬くんの腕が当たって額から血を出した。どうやら相手校の選手らしい。
痛々しいその姿に駆け寄りたくなったし、黄瀬くんを叱りつけたくなった。事故だというのはわかっているがなぜ謝りにいかない。今は敵だから?そんな心配そうな顔をするなら駆け寄ってあげればいいのに。


「……今の子は礼儀がなってないな。後でシバくか」


黄瀬くんの言葉からして倒れてしまった彼は黒子くんというらしい。大きい彼といいコンビだったと周りの子からは聞いた。でも、その相棒が倒れてしまったのだ。どう仕様もない。


「これだから団体競技は……」


―面倒くさい


剣道だって団体戦。でも土俵に立つのはたった一人だけ。相手と審判と自分を合わせても五人だけだ。
確かに自分一人だけ勝っても次には進めない。でも結局は戦うのは一人ぼっちだ。


「……あ、智香」


「あれ、杏奈じゃない。キセリョ目当て?」


「いや、たまたま通りがかっただけだよ」


笠松くん目当てだったら彼女にここから突き落とされていたかもしれない。女とは恐ろしいのだから嫌になる。自分も女な訳だが、嫉妬とかそういうのは全くないしな。



prev next
back


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -