「く、悔しい……」
「……同感だ」
「お、お疲れ様っス」
結局二人がかりでもボスには敵わなくて結局負けてしまった。
無理ゲーにして、金を取るなんてゲーセンの思う壺。結局それにハマってしまった。
ゲーマーな自分が嫌になる。
「粘ったのにダメだったんだな……」
「ああ。強かったよ、あいつは」
「だな。今度は違う奴とやれよ。俺より上手い奴」
その言葉に私は首を振った。上手い奴とはやりたいが、あまり親しくない奴ととはやりたくない。
当初全く見知らぬ彼を引っ張り無理やりゲームをやらせた人のセリフじゃないが。
「そうか…さて、帰るか」
「ああ。……迷惑をかけたな、笠松くん。お詫びに何か礼をするよ」
「え?いや、んなもんいらねぇ」
だからその断り方が、傷つくんだ。いらねぇってひどいと思うのは私だけか?
腹いせに無理矢理にでも、やらせてもらおうか。
「じゃあ、晩御飯に招待するよ。ダメか?」
「いや、おふくろが」
「あれ?笠松先輩今日お母さんいないって言ってなかったっスか?」
「確かに言ってたな。作ってもらえよ、笠松」
「は?」
ああ、わかるよ。イジりたくなるよな、彼。
もう、顔が言ってるよ。イジりたいって、イジりがいがあるって。
楽しいから、笠松くんイジるの。
「てめぇら、楽しんでるだろ」
「そ、そんなことないっスよー。やだなー、先輩」
「そうだ、笠松。女の子の家なんてなかなか行けないぞ?行っとけよ」
「はぁ!?」
耳まで真っ赤にしながら森山くんを叩く彼はイケメン、というより可愛い、と形容した方がいいのだろうか。
こう……気の強い小動物みたいな感じだ。
「ほら、笠松くん。行くぞ。ご飯を作るのは時間がかかるからな。こんなところでモジモジしていたら、時間がもったいない」
体に触れたら野太い声で悲鳴を上げるからカバンをつかみ駅まで歩く。
後ろから森山くんと黄瀬くんの声が聞こえたから笑って手を振り返しておいた。
****
「結局、荷物持ちが欲しかったんだろ?」
「おや、バレたか」
「いや、合ってんのかよ」
「そうケチケチするな。ほら、ブロッコリーと玉ねぎ3玉、人参、キュウリ……」
「何作るんだよ」
「秘密だ。笠松くん、豆腐。豆腐を取ってきてくれないか?頼む」
「わかったよ」
渋々、とでも言えよう。相変わらず眉間にシワを深く刻み、かごを持って豆腐がおいてあるコーナーへと足を進めてくれた。
別に作るものはこれと言って決まってはいないが、あるものと今日買うものでなにか作れるだろ。
「これでいいか?」
「ありがとう。それでいい。ほら、会計にいくぞ。待たせたな。飯までもうちょっと待ってくれ」
「あ、待てよ……ったく」
きっと男の子のことだ。コンビニで済ませようとか思っていたんだろう。
スポーツマンなのに、健康に悪い。大体、スポーツをやるんだから作らなきゃいけないのに。
『今日の晩は何で済ませようとしてたんだ?』
「コンビニ」
『やはり、そうか。ダメだぞ、スポーツやってるんだから自分で栄養管理しないと』
当ってしまったカンに少しだけ笑ってしまう。それを彼はなんだよっ、といって不機嫌そうな顔でこちらを見てくるのだ。
彼は面白い。見ていて飽きない人は、好きだったりする。まぁ、友達的な意味だが。
特に表情をコロコロ変えてくれる人ほど好きだ。
「あ、肉買うの忘れてた。とってくる。並んでてくれ」
「わーった。早く帰ってこいよ」
笠松くん、ファン多そうだな。
こう、小動物大好き!なファンが。いや、彼自体小さくない。むしろ女子の私から見ると大きいほうだ。10cm以上違うだろう。
いいな、身長が昔も今も欲しい。背の高い方が剣道は有利だ。小さければ小さいほど、一本入りやすい。まぁ、あまりにも小さい人、というのもいないが。
「うーんっと、これでいいや」
安そうなやつを手に取り急いで笠松くんの元へと戻る。
こうやって誰かと買い物に来るのは久しぶりだな、思えば。楽しいというか、懐かしいというか。
胸がほっこりするよ。
「お待たせ。あ、これも一緒でおねがいします」
「畏まりました」
「払う」
「いや、構わない。どうせ家族分も買ったんだ。笠松くんの分の値段を出すのは難しいからな。いらないよ」
「だけどっ」
「気にするなってば」
値段を言われ、自分の鞄から財布を出したところでこの会話。
後ろがつっかえているのだ。ここは早い者勝ちだろう。
「はい」
「あ……」
「だから気にするな」
何か、こういうところまでちゃんとしてるんだ、と思うとやはり彼は男らしいのか可愛いのか分からなくなる。荷物もエコバックに詰めたらちゃんと自ら率先して重たい方を持ってくれた。
優しい。優しすぎるだろう。こんな優しいお兄ちゃんか弟が欲しかったぞ。
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