「はいみんな、こーい」
「部長、どうでした?」
「ごめん、ダメだった」
私は海常で女子剣道部の部長をしている。朝練は来ないわ、ゲーセンよく行ってサボるわでいい部長をしているわけではない。
ただ、実力的には部長になれるものだったようだ。リーダーシップはあるらしいし、後輩にも好かれるらしい。
「まぁ、うちのバスケ凄いですから……仕方ないですよ」
「ま、そうなるよね。さて、と……走り込みするよ」
「ええ!?杏奈ならゲーセン行くと思ってたのにぃー!」
「まぁ、笠松くんに頼みに行った手前だ。部活道をきちんとしてみようかとふと思ってね」
「嘘じゃーん」
「智香、そんなに気を落とすな。どうだ、裏の寺の方の階段登ろうか」
「はぁ!?ちょっと、待ってよ。あそこは地獄なのよ?私たち3年2年にとったらかなーりの!」
前橋智香。それは私の一年生からの友達だ。
剣道部でも一番の仲の良い友達。信頼しているし、いろいろアドバイスなども貰うため頼りにしてる。
ちなみに寺の方の階段。そこは先輩たちが体力作りのために発見した寺への階段だった。長い階段のため、走り込みしすぎて足が震え、歩けなくなるものも出てくる恐怖の階段だったりする。
「まぁまぁ、一年もいるし、チャレンジしてみようかなと思ってな。みんな、いくぞ」
「いやぁぁあ」
智香の悲鳴は無視して寺に向かったのだった。
****
「ぁぁあー、汗臭い」
「何で智香は剣道部に入ったんだ」
「んー、できたらかっこいいじゃん。んじゃ、私帰るね。また明日〜。朝練ちゃんと来いよっ」
「ああ。また、明日」
手を振り更衣室から出ていった彼女の後ろ姿。随分髪の毛が伸びていた気がする。
いつもポニーテールなどにしてくくっているのでよく見ていなかったな。
そんなことを思いながら万能ファブリーズを道着にふりかける。ちなみに無臭にしてくれるやつだ。それから干して、部室の電気を消す。
完全下校時間を軽く上回っているがそれは仕方のないことだと、学校側も目を瞑っている。
「あれ……」
校門出て友達と別れていく彼は先程話していた笠松くんに面影が似ていた。
「笠松くん?」
「っうおわっ」
「うおわ?」
肩を叩くと奇声を上げた笠松くん。
その声に笑ってしまう私を笠松くんは変なものを見るような目で見てくる。酷いぞ、ホント。
「お前は……敷島か」
「ああ。笠松くん、帰りはこっちなのか?」
「まぁ、こっちだけど……?」
「そうか。私もだ。いつも一人になってしまってな。今度からは君と帰ろうかな」
「はぁ!?」
「うわっ、じょ、冗談だよ!」
この世のものとは思えない彼の形相に驚く。いや、だってもうなんか……本当に女の子嫌いなんだな、この人ってすぐわかるよ。
こういうこというのもNG。近寄れば一定の距離を保たれる。手を彼に伸ばせばひっ、と言われてしまう。
何故だろう、私自身が嫌われているような感覚に陥るよ、君といると。
「てか、お前もこっちなのか?」
「ああ。そうだが?」
「そうか……」
会話はそこで終了してしまった。沈黙が流れる。私はこういう時間が結構苦手だったりする。だが、彼だって女の子が苦手なのだ。話していては負担になるかもしれないのでやめた方がいいだろうという思いだ。止めてやろうか。
「眼鏡……」
「へ?眼鏡がどうかしたのか?」
「何で、今日は眼鏡なんだよ」
「今日か?」
「ああ……」
彼から話題を作ってくれるなんて思ってもいなかったため、こういうのはものすごく嬉しい。
私は人と話すのが好きだからな。話しかけてくれるのなんてむちゃくちゃ嬉しいのだ。
「私はよく寝坊をするんだ。だから今日は眼鏡。というか眼鏡じゃない日なんて珍しいんだ」
「そ、か。……あー……眼鏡より、コンタクトのがいいんじゃねぇの?」
電車まで同じだった。どこまで同じなんだろうか?
プラットホームでの会話。電車の音がうるさくて彼の小さな声は聞こえなかったが聞こえた気がする。
コンタクトのがいいって聞こえたんだ。
「ど、どうしたんだ……」
「いや、今の嘘!嘘だから!」
「それも失礼だな、おい」
「あ、や……えー、あー……ぅ、嘘じゃねぇよ」
やはり彼は女の子が苦手なシャイボーイらしい。でも、沸点が低いだけできっととても優しいのだろう。
じゃなきゃ、そんなこと言ってくれないのだから。
「ふふ、ありがとう。笠松くん」
「いや、別に……」
乗った電車も同じだった。電車の中では静かにするのがマナーなため静かにしていた。
降りた駅も同じだった。
帰り道も。
「笠松くん、家はどこだ?」
「あれ。あの青い屋根の」
「!何だ、私の家はあの十字路を右に曲がってすぐのところだ。意外と近かったんだな。これからよろしく、笠松くん」
「お、おう……よろしく。んじゃ」
「ああ。また」
別に家が近いだけで何もないけれど
またこうやって一緒に帰りたいと願ってしまったのは
なぜ?
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