「失礼する」


面は視界が悪くて困る。だけど、付けるのも外すのも面倒くさいから嫌いだ。
いやまぁ、剣道は大好きなんだが。


「あれ、どうかしたのか?」


誰だったかな?林山くん?違うな、森山くんだったか。その彼が汗を拭きながら近寄ってくる。


「ああ、部長はいるか?もしくは監督でも構わない」


「監督は今いねぇし部長だな。おーい、笠松!!」


「んだよ、森山ぁ!シバくぞっ!」


「何でだよ!見ろよ」


手をバキバキと鳴らしながらこちらに近寄ってくる笠松くん。口角が片方だけ上がり拳を構える。


「はぁ?剣道部?」


「女子剣道の方だよ」


「は!?じょ、女子!!!?」


「女子だが……問題でもあるか?」


笠松くんは女子が苦手なんだった。こないだの話で忘れていたよ。しかし、面が付いているから少しは軽減されるだろう。
それよりも、私は用事があってここに来たわけだから、話したいんだが……。


「い、いや、そんなことないんだけどさ……」


目が泳いでる笠松くん。ちょっと可愛いな。
まぁ、そんなことよりも……


「体育館を半分、貸してはいただけないだろうか?雨漏りしてしまって数日間使えないんだ。ダメだろうか?」


「また雨漏りか。あー……わりぃ、バスケ部も何かと忙しくて、その、無理だ」


「そうか、仕方ないな。……わかった」


「ああ。ん?お前……敷島ってこないだの……」


ああ、わかってないだろうなぁ、なんて薄々思ってたけどまさか本当に気づいてなかったとは思ってなかったぞ、笠松くん。
私の名前を見て気づいたのだった。


「こないだは……ありがとう、っす」


「なんでその中途半端な敬語なんだ?同い歳なんだから気にしないでくれ」


「おう……てか、わりぃな。うちも、いろいろあってな」


「いや、忙しいのはお互い様さ。今日は体力作りでもしておくよ」


することと言ったらそれくらいしかない。走り込んだり竹刀振ったりするくらいだ。
剣道は裸足でするものだから、外で上靴を履いてやるのはどうも練習にならない。
済まなさそうに眉間のシワを相変わらず深くする笠松くんの頭に手を置きそのまま立ち去った。
篭手は手が臭くなると言う理由でいつも練習の時以外は付けないようにしていたので撫でれたのだ。


「は!?え、……っ」


「か、笠松くん……クッキーは不味かったか?」


「は、はぁ!?クッキー!?あ、クッキーか」


そんなに焦らなくても。私も身長は大きいほうなので背伸びをしなくとも笠松くんの頭に手が届いたのが嬉しかった。
硬そうな髪の毛は汗でしっとりと濡れていて意外とふわふわだった。


「てか、さわんな……よ」


「あはは!ごめんごめん!私は基本的、女らしくないから平気かと思ったがいけなかったか。すまない」


「当たり前だろ。それよりクッキー…かった」


「え!?何て言ったんだ?まずかったのか?」


肝心は部分が声が小さくて聞き取れなかった。
耳まで真っ赤にして叫ぶ姿はあまりにも可愛かったと私は断言できる。


「ううううううまかったよ!!!!」


「うわぁっ!」


耳がキーンと、なるほど大きな声をあげた彼は顔を腕で多い隠しうぅ、と小さな声で呻いた。
それよりも美味しかった安堵感でため息が漏れた。


「な、なんだよ!女々しいってか!」


笠松くんはこの溜息を違う意味でとってしまったらしい。
そんなことないのに。女々しいって顔じゃないだろう、君は。可愛い顔してるけど。
性格上男らしいじゃない。


「そんなこと思ってないよ。美味しいって言ってもらえたから嬉しかったんだ」


「そ、そうか」


ぱっと明るくなった彼はやはり可愛らしい。


「せんぱーい!何してんスかぁ?あ……何か、すんません」


「は?」


「や、告白されてるのかと……」


「黄瀬ぇ……シバくぞ!」


「いってぇ!せんぱいっ、もうシバいてますって!!」


背中を押さえて黄瀬くんはその場から退場した。
それから笠松くんは時計を見た。どうやらもう休憩は終わりらしい。私も部の皆に体育館が使えないということを伝えねばならないのでここでお開きとなった。


「あ、おい敷島」


「んー?」


「肉じゃが。笠松が好きだぜ?ちなみに俺は」


「森山くんのは、いい。ありがとう。気が向いたら作ってみるよ」


森山くんのニヤニヤが気持ち悪かった。まぁ、そんなことよりも、何で森山くんが笠松くんの好きなものを教えてくれたのか疑問で仕方がなかった。
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