凍りついた鶴

『及川徹』

その男は私にとっては幼い頃から一緒にいてくれて、隣にいて守ってくれる、そんな人だった。大人になってもその距離が変わることは無かった。幼い頃から一緒にいた彼と自然と距離が縮まったと思う時はあった。

「名前、手、繋いでもいい?」

それが始まりだったとも言えよう。
今までにもスキンシップという名のボディタッチなんていくらでもあった。それに気を止めたこともなければやめて、なんて言うこともなかった。

「ん、いいよ」

幼稚園からずっと一緒だったのに、高校生に入ってこうやっと距離を詰めていく。それが何だかもどかしくて恥ずかしかった。でも、その反面嬉しかったのは確かだ。だから、付き合った時幸せと感じたのは極々当たり前の話。

『岩泉一』

この男もまた、ずっと私と一緒にいてくれた人。私にとっても徹にとっても大切な人。私たち3人は幼馴染という枠組みに当てはまる。彼は思春期に突入して一度は距離が離れかけたが、高校に入って距離は元に戻った。

「名前、クズ川」
「岩ちゃん酷い!!!」
「おー、はじめ。おはよう」

こんな日々。
徹は私にとって王子様で、はじめはナイトだった。困った時に助けてくれるのははじめ。泣いている時に駆けつけて優しく抱きしめてくれるのは徹。

まぁ、とどのつまり二人は私にとってかけがえのない大切な人。
なのに、私は先週そんな大切な彼氏である及川徹と喧嘩した。もう一週間経つ。時間とは早いもので、謝れずにこうやってはじめに愚痴っている時と同じ時間が流れていく。

「お前ら、まだ仲違いしてんのか」
「仲違いじゃない」
「さっさと仲、直せよ」

1週間も同じ話を繰り返されるのは彼も気が滅入ることだろう。可哀想に、なんて思いながら私のせいだと一人でツッコミを入れて悲しくなる。

「だってあれは、明らかに徹が」
「へいへい、わかったわかった。分かったから泣く度に俺を呼び出すのをやめろ。そういうのはあいつの役目だ」
「そのアイツと喧嘩してんのよ」

喧嘩はすごく些細なこと。でも珍しく徹が怒ったから何か裏があると思って私も買い言葉に売り言葉、声を荒らげて彼と喧嘩した。中学以来だった。
何でも徹は私のわがままを聞いてくれた。わがままが過ぎた時は諭されたりもしたけれど、それでもこんな大きな喧嘩は初めてだった。

−大ッ嫌い!

なんて言った自分を呪いたい。
本当は大好きなくせに、喧嘩になると反対のこと、言いたくなるのは自分の悪い癖だ。
未だに徹の傷ついた顔が忘れられない。大きな瞳を見開いて、アーモンド色の彼の瞳の中には私が写っているのが見えた。全てがスローモーションに見えた。

「あー、わりぃ。電話」
「ん、いってら」

歯切れの悪いその言葉に推測するに、絶賛私が喧嘩中の及川徹だと見た。

「すみませーん生二つー」
「はい!生二つ入りました!」

はじめの分もビールを頼みツマミである枝豆を口に投げ込む。
このいい感じの塩加減がたまらん。美味しいよね、枝豆。ビールのお供としては王道だが、この王道が私は好きだ。美味しい。

「あーあ……」

徹不足だ。明日私の誕生日だし、謝ろうかなぁ。私が何も聞かずに問い詰めたのが悪いんだし。
でも女の子と楽しそうに歩いてジュエリーショップに入ったら怒るのは当たり前じゃない?私が短気なのかな。
短気は損気、ちゃんと徹にも理由があったんだろうから、今日帰って話を聞こう。意地張って家に帰らないなんて、やめよう。

「名前!」
「うぉう、はじめ声がでかいよ。酔ってるの?」
「及川が」
「……徹?」

−車に轢かれた、っておばさんが

息が詰まった。酒なんか、すぐに抜けた。寒空の中、コートは手に持ちはじめとタクシーを捕まえた。
仲直りしようかなぁ、って思った瞬間に何でこんな事になるの。なんで、なんで……。

「泣くのはあとだ」
「……ん」

徹にとってはじめが大切のように、はじめにとっても徹が大切なのは当然で、私と変わらない。私たち幼馴染は全員が全員大切なのだから。だから、はじめだって、泣きたいってことくらいわかってる。分かってるから、ごめんと呟いた。
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