どうか許さないで

『及川徹』
その名前の男と

『苗字名前』
という名前の女は

俺にとってかけがえのない大切なヤツだ。誰かに傷つけられたら、絶対許せないし、許す気もない。というか、根本的に許すのは不可能だと言っても過言ではないだろう。

及川徹という男は、見ていてイラッとする時もあれば笑える時もあるが大概はイラッとする。それが及川の長所だろう。長所と言っていいのかは分からないが、アイツはアイツなりにいいところが多分あるのだろう。俺に見えていないだけで。ただ、バレー馬鹿で何事にも負けず嫌いだというのはいい所じゃないだろうか。

苗字名前という女は及川徹同様俺にとって大切なヤツだ。及川とは知らぬ間にいたが、苗字名前が転転校してきたことのことはよく覚えている。笑顔が及川とは違う、可愛らしいと俺でも思うほどだった。母親の後に隠れながらオドオドとしている姿は今のアイツとは全く違う。全く、あの可愛らしさはどこにいったのだか。

そんな名前は俺の目の前で泣きながらそばを啜っている。時たま噎せているがすごく面白いのだが笑ってはいけないなんて阿呆なことを考える。

「お前、もうやめろよ」

そんな名前は俺の家に今居候を無理やりしている。

「何、を」
「言っちまえ、今思ってること。溜め込むな。家帰ったら聞いてやるから」
「うん……う、ん」

後輩思いで、仕事もよく出来、性格も顔もいい。そんなことを言われている理想の女の彼氏が及川である。幼なじみと呼ばれる頃には及川は名前のことが好きだということは分かっていたし、名前が及川のことを気にしているというのも幼いながらにわかっていた。何故こういうところだけ敏感なのか、松川と花巻に笑われた記憶がある。

「ねぇ、はじめ」
「あ?」
「もう思い出してくれないのかな」
「まだ一週間しかたってねぇぞ」
「うん。なんか、喧嘩してて全く話そうと思わなかった一週間と今までの一週間、全然違う」

いろいろ心身ともに名前も限界なのだろう。夜も眠れず夜中までテレビやパソコンをいじっている姿をたまに見る。眠れないのが目に見えて目立っていた。

「そうか」

相槌を打つことしかこれには出来なかった。俺はあくまで名前を守る存在であって助けてやる存在でも抱きしめてやる存在でもない。それは当たり前のことだし、そんなことした日には及川に笑顔で殴られるのがオだろう。

「私さ」
「ああ」
「馬鹿だなぁって今も思う」
「……」

「徹がああなったのは私のせいだから」

ああ、本当に、幼馴染達は人をイラ付かせる天才だと思う。何故こんなにも馬鹿なのだろうか。本当に馬鹿だと自覚しているあたり馬鹿だ。ただ、馬鹿だと感じる瞬間が少し他者とは違うらしい。

「もうそんな事言ったって仕方ねぇだろうが」
「わかってる、わかってるけど」
「思い出す」
「え?」
「アイツは思い出す。絶対にな。それを信じてやれ。今俺らに出来ることはそれだけだろ」
「……うん」

お互いにお互い、阿呆で間抜けで馬鹿である。

「ここで話してても意味ねぇだろ。家帰ったら存分に愚痴れ。どうせ俺しかいねぇし」

扉を開けて入ってきたやつに頭を抱えた。なぜここでお前が来たんだと聞きたくなるタイミングだった。ナイスともバッドとも言えないタイミング。
コイツらの幼馴染み辞めたいと、思った。
 
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -