寿命の縮まる恋をしよう

携帯の暗証番号をショップに行って変えてもらって、それから連絡が来ていた記憶にもない友人であろう人達に返信をしていく。大丈夫だよ、ありがとうなんて心に思ってない言葉を書き連ねていく。その度に虚しくなっていく俺の心。
何か思い出すきかっかけになるんじゃないか、そう思ってメールやSNSアプリの中を見てみる。

―見て見て、大根。二股に分かれてるやつ

―花金って死語なんだね笑後輩に言われて気づいたよ

一番上に来ている名前をタップするとそんな言葉が沢山左側から出ていた。よく名前を見ていなかったけれど名前は名前となっていて、納得した。本当に俺と苗字さんって付き合ってたんだなってホッとした。それと同時に後悔した。理由は単純明快、大切にしなきゃいけない彼女を俺が沢山傷つけたからだ。取り返しのつかないことをしてしまったと今更ながらに後悔した。

『徹ー、何取ってるの?動画?やめてよー』
『何で?いいでしょ。今日は何作ってるんですか』
『何だと思う?』
『うーん、何だろうねぇ。卵焼き』
『……馬鹿なの?』
『冗談だって……!』

携帯の画面に雫が落ちてはねる。

『とーるー』
『はいはい』
『好き』
『え?何て?』
『もう言いませーん』
『え、ちょ、真面目に聞こえたなかったんだけど!?』
『聞き取らない徹が悪い』

画面が、見えなかった。ただ、画面の中の彼女が、苗字名前という俺の大切な人であるはずの人が満面の笑顔を浮かべているのを見て幸せを感じた。俺はこんなふうに笑っている彼女を見たことがなかった。俺が彼女の笑顔を殺したのだ。

『何でいつも撮るの?』
『幸せを噛み締めるため』
『キッモ!キモイ!』
『酷くない!?!?彼氏にそれ言っちゃダメでしょ!』
『ふふ、冗談通じない男は嫌われるよ?』
『結構今ガチめだったじゃん!』
『ふふ、また見せてね』
『じゃあ、編集して今度見る?』
『見るー!』

画像フォルダにはたくさんの苗字さんの写真と動画が入っていた。一つ一つ開いていけば、頬を膨らます苗字さん、照れるように笑っているもの、怒っているもの、映画を見て感動して泣いているものまであった。
ああ、俺この子が好きなんだなぁなんて思った。唐突、だった。でもそれでも俺この子が好きだ。今の俺じゃあ彼女を幸せにすることは出来ない。彼女が大好きな俺は消えてしまったのだから。

「今の俺も、君が好きだッッ」

携帯を壊さんばかりに握った。
それから携帯を起き、部屋の中を回る。そういえばゴタゴタしていてまだ、棚の中とか全く見てなかったな。俺の部屋にある棚や引き出しを見ていくとスケジュール帳を発見。パラパラと見ていくとアクセサリーの広告と苗字さんとの写真がパラパラと落ちる。拾い上げれば広告の裏面には月と日にちらしきものが赤で大きく書いてあった。その日を探して開く。ちょうど一週間前だった。

「ッ―」

俺が事故った翌日、苗字さんの誕生日だ。
彼女はどんな気持ちでそれを迎えたのだろうか。俺は彼女になんて言った?目覚めた時に俺は、彼女は

「……誰?その人、岩ちゃん」

「俺は最低だッ」

ここまで最低だとは今までの中で初めての感情だった。
そして、鍵付きの引き出しを開けた。何故か開きっぱなしだったそこに入っているものを見てガツンと頭を殴られた気がした。

「ねぇ、徹」
「んんー?」
「ずいぶん上機嫌じゃない」
「名前、怒ってる?」
「怒ってない」
「怒ってる」
「怒ってないって言ってるでしょ!しつこい!」
「俺、何かした?」

そうだ、あの日、あの時苗字さん、名前はすごく機嫌が悪かった。俺は俺で名前の誕生日間近でソワソワしてたし、周りにあまり注意を向けてなかった俺も悪い。

「何で?私に飽きた?」
「はぁ?そんなわけないだろ、何言ってんの」
「じゃああれ何!?浮気じゃないの!?」
「何の話してんのかわかんないんだけど!」
「シラ切るつもり?私見たの」
「何を」
「アクセサリーショップ、女の子と入ってって何か買ってたよね!」

何も言えなかった。言えるはずがなかった。
だってこれはとても大切なもので名前には絶対バレたくなかったから。何も言い返せなくなった俺に彼女は涙をこぼしてこう叫んだのだ。

「大ッ嫌い!」

家から飛び出していった彼女を追いかけても、タクシーに乗られてしまえばもう追いつくなんて無理な話だった。おそらく岩ちゃんの方だろうと連絡を入れる。で、一週間全く口を聞いてもらえなくって家の中でどう謝ったらいいのかと考えあぐねていた。こんな大喧嘩は初めてで、どうしたらいいのかわからないのだ。
岩ちゃんに名前の現在地を聞いて迎えに行こうと思ってた。その次の日が名前の誕生日だったから。だから、家から出て歩いてて……それで。



「ああ、そっか。俺、それで事故ったんだ」

迎えに行こうとして事故って、記憶を失って。

「一番失っちゃいけないもん、失うとこだった」

泣いてももう遅い。早く、早くしなきゃ。玄関の鍵をかけようと急ぐが手が震えて何も出来ない。
走りながら親に電話して、案外あっけなかったねなんて笑いながら走ってタクシーを捕まえる。目的地は岩ちゃんの家。ポケットにちゃんと入っているか確認して祈るようにして手を組む。カタカタと震えているのが情けなくて、笑えた。
 
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