嫉妬のち晴れ

「黒尾くーん、ここは?」


ねぇ、鉄朗はさ誰の彼氏なの?私のじゃないの?いつもは私に向けない笑顔。近い、近いよ。その子と顔が、体が、近い。わかってないの?


「ここは、この公式。わかる?」


私に勉強教えてるときはニヤニヤしてて、おどけたりするくせにどうしてそんなに優しくするの?


「ああ、そっかぁ。ありがとう!」


「いえいえ、どういたしまして?」


見ていたくなかった。女の子に優しくする鉄朗を。私には見せてくれないその一面を見せるのを。私に構ってくれない彼氏なんて一緒にいたくない。


「?名前、どうかしたか?」


立ち上がって隣の椅子に置いてあったスクールカバンを掴む。ここは図書室なので、大声で言いたいことがあったりするが抑えてたった一言だけ伝えるために口を開く。


「帰るの」


最初はそりゃあ、教えてくれていた。でも後から本を読み初めて相席を許して、しかも女の子なのに。その子に勉強教え始めて。


「何で?」


「……別に」


だって、構ってくれないから。
そんな汚い感情見せたくなくて下唇をきつく噛み、その場から立ち去った。珍しく焦ったような顔が見れると思ったらそんなことなくて。普通に別れの言葉を言われただけ。ばいばーい、普段通りのニヤニヤした顔でそういうのだから、嫌で嫌で。俯いて歩いた。


「あれ、苗字じゃん。黒尾は?」


「探してるの?それなら図書室に」


「いや、お前に用があってさ」


隣のクラスの男子生徒。確か名前は……高橋くん。あまり話したことないけれど、優しい顔してると思う。笑顔も鉄朗みたいじゃなくて、はにかむっていう表現が合うような笑顔。
来てと言われてついていけば皆テスト期間だからか、帰ってしまい静まり返った自教室。


「何か、用?」


「あの、さ、その……苗字のことずっと好きだったんだ。付き合ってください」


なんてベタな告白なんだろう。それより、私は鉄朗と付き合っているのに何でこの高橋くんに告白されているんだろうか。


「失礼しマース。俺のカノジョ、勝手に口説かないでくれる?」


手を引かれて教室の出口にまで引っ張られていく。高橋くんは悔しそうな顔をして、俯いていた。いや、悔しそうな顔をしているのだろう。俯いていて正直わからなかったから。
それよりも。


「離してよ」


「おっと。何、怒ってんの?」


勢い良く腕を振れば簡単には外れない腕。
ていうか何であの場所が分かったの。エスパーか。


「いやぁぁぁぁあー!」


「ええ、ひどっ」


「何よ、変態!浮気者!バカ!女好き!いやぁぁぁぁあー!」


「おいおい、その言い方は無いだろうが」


でも、その顔は笑っていて。その顔がイラつく。さっきみたいな綺麗な笑顔じゃない。子供がいたずらしてる時に浮かべる笑。私にはいつもそれで、ほかの子には笑顔。


「ねぇ、鉄朗の彼女って誰?」


「は?お前だぞ」


「なのに何で私にはいつもそれなの!」


「それ?」


「笑顔よ!え・が・お!」


彼の顔に向かって人差し指を向け睨みつける。その仕草さえも彼には面白く見えるのかケラケラと笑う。何でこんな人と付き合っているのか不思議になってきた。


「ああ、これ?何が違うんだ?」


「そのッ、私にはいつもこう……ニヤッみたいな感じなんだけど、他の女の子に対しては爽やかなさぁな笑いなの。何で?」


ほら、またニヤ。


「お前その感情の名前知ってっか?」


「な、」


「この黒尾様が当ててやろうじゃないか」


「い、いらない!いいから!」


「『嫉妬』だろ?」


その言葉だけは聞きたくなかった。何か、汚く感じる。嫉妬ってどっちも女編で。嫌な感じがするのは私だけだろうか。言われたのが、当てられたのが恥ずかしくて目頭が熱い。私はこんなにも涙腺が弱かっただろうか。


「第一、あの笑い方表情筋吊りそうになるから嫌なんだよな」


「……え?」


「だーかーらー、お前以外に見せるその笑ってやつ?あれわざとなの!わかんなかったわけ?」


カバンの紐が、肩からずり落ちて腕の関節にカバンが落ち着く。いつもよりも参考書とかが入っている分重たいから腕が痛い。察してくれてのか、掴まれていた腕から手が外れた。そしてその手で私のカバンを持ってくれる。


「わかるわけ無いじゃん」


「はぁ?ていうかお前、何告白されてんだよ」


「知らないよ!それより!どういうこと、はっきり言ってけれなきゃわかんない」


本当はわかってる。でも、言って欲しい。エゴだってわかってる。きっと誰だって自分が一番だと言ってもらえれば嬉しいと思うから。だから、言って欲しいの。


「お前には本当の俺しか見せないわけ。他人にはちゃーんと気ぃ使ってんだよ。これでいいかっ」


そっぽを向いてしまったその顔は少しだけ赤くて、その巨体の割にはかわいく見えた。
廊下の角から見えたプリン色の頭。


「あれ?孤爪くん?」


「ああ、苗字さん。クロ、うまくいったの?」


「げ、研磨要らないことを」


「孤爪くん、何がうまくいったのかな?」


「『嫉妬』させるの」


その後、鉄朗のほっぺに紅い紅葉が咲きましたとさ。当たり前だ。
しかしながら、それも可愛く感じてしまうのはもう末期なのだろうか。これも、愛ゆえに、だと思ってしまうと顔がニヤけてしまう。


「お、俺だって嫉妬したぞ」


「何に?」


「告白され、て、て……」


今日も私の彼は巨体の割には可愛い悪戯好きの男の子です。


「ねーねー、鉄朗さん。ゴメンなさいのチューは?」


「え"!?」


「ほら、」


目を瞑って待っていれば一瞬感じる自分のものではない熱。触れた部分だけ熱くなって恥ずかしい。
それでも、顔を真っ赤にしてでも、目を合わせてくれなくても、手を差し出して握ってくれる鉄朗が大好きなんだ。

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ミユ様、これで、こんなのでも、よろしいのでしょうか!?すっごい不安です。最後、甘かったのでしょうか。甘いのがかけないのがいいわけではありませんが果たして甘くなっているのか……。
ミユ様だけ、お持ち帰りオーケーです

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