留守電はよして

なんで、違う大学なんだろう。どうして会えないのだろう。どうして、時間が無いのだろう。

「はぁ……」
「名前ちゃんまたため息」
「だって、会えないんだよ?そりゃ付きたくなるよ。私も征十郎くん並の頭があればなァ」
「無理でしょ」

笑顔で悪態をついてくる自分の友人を軽く睨んで机に突っ伏する。冷たい机は頬に引っ付いて気持ちがいい。
私の彼氏の赤司征十郎くんは頭がいいからとても偏差値の高い大学に行った。そこまでは良かったが私が一緒にはいれるほどの頭脳を持ち合わせていなかった。私は中の上。征十郎くんは上の上、つまりは一番である。運動も勉強も。

「なーんで付き合えたんだろ」
「どっちからなの」
「どちらからともなく?」
「それ、平気?そういうのって、自然消滅多そうだよね」
「やめてよ……」

ただでさえ会えなくて泣きそうなのに。本当にこの子容赦ないわ。可愛くてスタイルも良くてモテモテ子ちゃんなその子は同じキャンパス内に彼氏がいるのだから羨ましいったらありゃしない。

「いいよねー、彼氏同じ大学しかも同じ学部でさ」
「ゼミとかも同じだと嬉しいよ」
「嫌味ですかコノヤロー」
「本当に元気ないね。会いに行ったり電話してみたりは?」
「できるわけないよ。だってあのあったまいい大学だよ?迷惑だしそういうのしないようにしてる」
「そういうのがダメなんだってば!」

机を思い切り叩いた彼女はすぐに我に返り頭を周りの人たちに下げていた。情けない顔をその時はしていたというのに、再び征十郎くんの話に戻った時の顔は真剣になっていて驚いた。

「もっと、会いたいって思って行動しなきゃ。迷惑かどうかは実行して見なきゃわからないし第一、彼女に会いたいって言われて迷惑がる彼氏なんていないわよ。もしそれが赤司くんだとしたら、別れた方がいいよ」
「ええ、そんな……大袈裟なぁ」
「大袈裟なんかじゃないよ。それは、だって幸せじゃないじゃない。お互いにとってもさ。だったら、お互いにとっての幸せを考えたら別れる、ってことに私は行き着くなぁ」

恋多き乙女の考えと、恋少なき平凡女子の考えが違いすぎてよくわからないけれど、それでもたしかにこのピンク色の友人の言う通りなのかもしれない。言っていることもピンク色、見た目もピンク色。そんな友人は少なくとも私よりも恋はしているのではないかと思われる。いや、実際聞いたことないから知らないけど。

「でも、なぁ」
「とりあえず、少しだけでも会いに行ったり連絡とってみたりしたら?」

その言葉に机の上に乗っている裏向いたスマートフォンを手に取る。放置していたからか冷たくて気持ちが良かった。

「……電話、してみようかな」
「うん、してみて?きっと、名前のこと赤司くんが好きだったら連絡もらったら嬉しいと思うよ」
「きっととか言わないでよ、悲しくなるから」
「ごめんごめん」

電話帳から赤司征十郎の名前を探す。と言っても二番上なわけで。ちなみに一番上は、ってどうでもいいか。目の前の友人の幼馴染なんだけどね。
少しだけ、ほんの少しだけ押すのを躊躇ってしまう。指先が震えた。どれだけ電話かけるだけで緊張してるんだか。

「……」
《留守番電話サービスです―》
「あ、留守電……」
「うぁっちゃぁ……」

その落胆、私もしたいよ。
アイスコーヒーに刺さっているストローを口にくわえ少し強めに吸った。口の中に苦い味が広がる。ここまで来て、留守電とか泣きそうになるな。
机に裏返して、再び携帯を置く。そろそろ二人ともゼミの時間だ、なんだ、と解散になって私は家に、友人はゼミに。お金は私がまとめて払うからまた返してと友人の背を押して財布からお金を出す。

「くやしー」

友人が彼氏と腕を組んで歩いている姿を見て改めてそう思う。悔しいな、私も腕くんでキャンパス内歩きたかったなって。

「…ん?ってあれ、征十郎くん?」

手に持っていた携帯が震える。帰り道、友人も誰もいない歩道で少しだけ

「……はい」
《ああ、名前かい?すまない、教授と話しててね。何かあった?》
「あ、えっと、何かあったとかじゃなくて、その……あれ?征十郎くん走ってる?」
《そこは気にしないでくれ。何かあったのか?》
「ッ……ううん、何でもないの。ただね、会いたいなぁって」
《!そうか……ねぇ、泣いてるのかい?大丈夫か?何かしてしまったのかな?》
「ッううん。征十郎くんが、悪いんじゃなくて声、聞けただけで……嬉しいの」

声だけど、それでも目の前に征十郎くんがいるように錯覚する。
後ろからランニングかな、走ってくる音がしたからとりあえず脇による。ポロポロと流れ落ちる涙を手で拭う。拭っても拭っても意味無いくらいにこぼれ落ちるけど。

「きゃっ!?」
「ハァ、ハァ……俺も、会いたかったよ。お待たせ」

ランニングの人近づいてくるなぁとか、どうでもいいこと思ってたら身体に走ったやんわりと包み込むような軽い衝撃。
痴漢かと思ったけど、目の端に写った赤い髪に征十郎くんだとわかった。

「ごめんね、時間、作ってやれなくて」
「ううん、いいの。今こうして会えてるだけで幸せだから 」

次いつ会おうと約束してもう一度抱きしめあった私たちは別の道を歩く。私は家に、征十郎くんは大学に。もっといたいと思ったけれど、次会える、それだけですべて頑張れるからお互いを応援しあえるから構わなかった。一時でも幸せだったから。それでいいのだ。今は、それでいい。また、があればそれでいいの。

。。。
リクエストありがとうございました。スラスラとかけたもので、とても書いていてドキドキしました。切甘にはあまりなっていないかも知れません。大学生以上の設定、ということで大学生にしましたがどうでしょうか?気に入らない点などありましたら御手数ですがご連絡ください。リクエスト、本当にありがとうございました!

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