人じゃなくても愛してよ

「ねぇ、月山」
「何だい?」
「私、人と共存するよ。トーカちゃんみたいに」

何か言いたげな月山を置いてその日私は彼の前から消えた。私を幼い頃に見つけてずっと何故かそばにいてくれた彼。彼が私を育てたと言ってもいいくらいにはソバにいた。

「君は俺といるといつも腹を鳴らすね。お腹が減っているのかい?」

それからトモダチを見つけた私。いつも一緒にいる赤髪の彼は面白いくらいに美味しそうだった。でも食べたくはない。彼は食料じゃなくてトモダチだ。初めて出来た、人間のトモダチ。

「んー、いつも常腹は減ってるからね」
「何か食べた方がいいよ。……飴、いるかい?」
「いや、いい」
「そうか」

飴はこの間もらって悶絶するような味だったからいらない。何故人間はあんなに不味いものを食えるのか、分からなかった。でも、きっと彼らには美味しいのだろうね。

「ねぇ、苗字」
「何、赤司」
「俺は美味しそうかい?」
「…………は?」
「はは、何でもないよ。興味本位で聞いてみただけだ」

背筋が凍った。
何事にでも聡い彼はこんなことまでわかってしまうのか。そりゃ、私はいつも彼の前で腹を減らしてる。グーグーと自然と音が鳴る程度には。

「……うん、美味しそうだよ」
「へぇ……そうなんだ」
「でもね、私友達は食べたくないの。喰種だって人と共存できる、好き会える助け合える。私はそう思
う」

彼になら自分が喰種だと言ってもいいと思った。何故かはわからない。ただ、そう思っただけで口にしたのだ。

「でも腹が減るんだろう?」
「……うん。少なくとも私を拾って育ててくれた人は教えてくれなかった人間には人間の優しさや温かみがあった」

月山は何も教えてくれなかった。そう、本当に何も。人間は餌だと、食べ物だと教えてくれた。それだけで、人間というのはどういうものか教えてくれなかった。

「もうおじいさんになったら食ってくれても構わないけど」
「ジジイは美味しくないの」
「そうか……」
「老い先短くなってしぬ間際って人間、美味しそうに見えないでしょう?」
「俺はそういうふうに見たことないからね、人を」

そう見てくれていたら良かったのに。そばにいてくれたのが月山じゃなくて赤司だったら良かったのに。
違う、私が人間だったら良かったのに。

「ッ……ぅ」
「どうしたの?」
「ホント、もうヤになる」
「そんなに俺を食いたい?」
「違う。……私が、私が……」

あなたと同じ人だったら、あなたを好きになっても良かったですか?

「最悪、だ」

月山の声が何故か頭をよぎる。

―殺さないようにね。トモダチを、さ

「わかってるよ、わかってる」
「苗字?」
「人間に、生まれたかったなぁ」

そういえば赤司は困ったような顔をして固まった。多分私は月山が言ったとおり人と共存することは出来ないだろう。でも、それでも、私は彼が好きなのだ。

「赤司、ばいばい」
「あ、ああ」

困惑したままの彼を放ってそのまま路地裏に入る。身分違い人種違いの恋なんてよく聞く話じゃないか。でも、少しだけ違うのは恋した相手をとても食べたいと思うことだ。

「言っただろう、名前。君に共存なんて無理だとね。僕のそばにずっといたらいいよ」
「うる、さい……!」
「君は、こんなにも腹を好かせてるのだから」

うるさいよ、月山。黙ってよ、放っておいてよ。抱きしめるな、匂い嗅ぐな。

「ッ……ふ、ぅ」

口の周りにへばりつく赤いものを月山が渡してくれたハンカチで拭く。

「明日も頑張らなきゃ」

朝が来るのが怖い。でも、明日も明後日もずっと私は食欲を抑えるのと学校を頑張らなきゃいけない。辛くない。だって、彼がいてくれるから。

。。。
リクエスト、ありがとうございました。月山と赤司を出したこの無理矢理感。本当にすみません。うまく纏まらせることができませんでした。でも、いい機会をくださってありがとうございます。

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