まだ気づかぬ想い如何に

名前さん名前さん!そういって見えないはずのしっぽと犬耳をつけた彼が今日はいない。
後輩の彼は何故か私に懐いてくれた。そこまでいいのだけれど、今日一日見てない。いつもなら10分休みが来る度に私に会いにくるのに。昼休みもこなかった。
ちょっとホッしてたのに。だって少しうざったかったもので。

なのに


「名前さん!名前さん!」
「はいはい」
「昼まで仕事で!すっごく俺さみしかったっス!」

何その、捨てられた子犬みたいな目は。そんな目で私を見るな。私はその目に弱いんだ。効果音をつけるのならばクゥーンである。

「そっか」
「はいっス!」
「お疲れ様」
「はいっス!!」

ああ、ダメだ甘くなる。笠松たちにもこうやって甘えさせるから悪いのだと言われた。無視すれば少しは落ち着くとも言われた。なのになぜ私はそれが出来ないのか。動物に近い黄瀬を無視するなんて私にはできない。だって、本当に捨てられた子犬みたいなんだもの。

「あ、名前さん!これ今日撮影一緒だった子にもらったんっスよ!一緒に食べませんか?」
「え、いいの?」
「はいっ!」

もうなんか、この子の手の上で転がされてる気がするのは気のせいなのかしら。絶対機のせいじゃないと思うのよね。このキラッキラした笑顔とか、見えないはずのしっぽとか、髪の毛の色のせいでゴールデンレトリーバーに見えるのよ!見えちゃうのよ!

「はい名前さん、あーんっス!」
「え、いや、自分で」
「あーん!」
「……あー」

ダメだ明らかにこの子のペースに乗らせられてる!どうしたらいいのよ、誰かこのワンコから助けて。

「はい、名前さんも!」
「ん?」
「あーん。俺にもしてくださいっス」
「……え、何で?」
「俺がしたから」
「む、無理やりでしょ?」
「違うっスよー。ほら、名前さんあーん」
「……あーん」

クッキー1枚で、私の指すごく震えてるんですけど。ガタブルなんですけど。絶対顔も真っ赤になってる。もう、最悪。

「美味しいっスね」
「うん。そうだね」
「名前さんはお菓子、何が好きなんスか?」
「えっと、チーズケーキ」
「おお!俺はっスねー」

聞いてないよ。その言葉は絶対に言えない。だってまだしっぽ振ってるんだもの。私は椅子に座ってて黄瀬は床に座ってるけど、またその体制が飼い主になでられるのを座って待ってるゴールデンレトリーバーに見えて。

「よしよし」
「ほ!?!?」
「ほ?」
「な、なななな、撫でて!?」
「え、だって撫でてほしそうだったし。クッキー美味しかったよ。ありがとう」

こんなことしてるからまーた笠松がいいに来るんでしょう?

「苗字、黄瀬甘やかすなぁ!」
「う、うん。ゴメンネ?」
「おら黄瀬ェ!チャイム鳴るぞッ」
「痛いって先輩痛いっスよ!」

ほら、もう黄瀬のお父さんみたいな彼は一定の距離以上は私に近寄らないくせして黄瀬くんを怒るのだ。

「名前さん、今日試合なんスよ。もし時間あったら見に来てくださいっス」
「やだ」
「え!?!?」
「いつも体育館にいるミーハーの子みたいじゃん。嫌だ。けどまぁ、頑張れ。応援してる」

その言葉にどれだけ黄瀬が喜ぶかは知らない。けれど、本心なのだから、喜ばれると嬉しいのだ。
パァ、と顔を輝かせた彼が私の手を握ってブンブンと振る。痛い痛い痛い。

「頑張るっス!」
「う、うん。黄瀬痛い」
「あ、す、スンマセン!」

パッと離れた手が暑いのはきっと彼がイケメンだからだ。
そうだ、そうに違いない。

。。。
澪様
リクエスト、遅くなってしまってすみません!
黄瀬くんの犬っぽさ全開の甘いお話になってますか?それが心配です。うちのサイトには黄瀬くんがないと言っていいほど置いていないので……。個人的に書いていて楽しいお話でした。
リクエスト、ありがとうございました。

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