「ねぇ、清志」
「あ?」
「ちゅーしたい」
その一言だけで一っ言も口を聞いてもらえなくなった。あの時の顔はきっと忘れない。怒鳴りそうで怒鳴らなくて、それでいて首まで赤くして、初すぎる。
「いや、でも苗字がちょっとデリカシーないというかもうちょっとオブラートにさ」
「じゃあ、したい」
「何をだよ!」
「じゃあ、木村だったら清志にキスして欲しい時なんて言うのよ」
「俺は……まず思わねぇから」
参考にもならない男子からの話。大坪に聞いたって同じことだし、かといって清志の弟、裕也くんに聞くのもなんだか嫌だ。清志の後輩、緑間くんと高尾くんに聞くのも嫌。
「話してもらえないのは辛い」
「帰ったりは?」
「するけど家着くまで無言」
「お前から話しかけたらどうなるんだ?」
「えーあー、顔真っ赤にしてそっぽ向かれてすっごく声が小さくなる」
ため息しか出ないのは、虚しい心をより虚しくさせた。なぜ私のあの、キスしたいという、言葉だけでこんなに関係が拗れるんだ。意味わからない。
「てかさ、私からしたら解決?」
「じゃねぇから。むりだよ」
「何でよ、そろそろ限界なの!清志不足なの!」
「本人に言え本人に。俺にはどうしようもできねぇよ」
「ばか」
「いやいや、普通だろ。つか、アドバイス求める方が間違ってるから」
まぁ、こんなふうに話を聞いてもらえるだけでもすっきりするのだから、礼を言って椅子から立ち上がる。ちょうど木村の後ろの席で、話しやすく、助かる。
「話してみるよ」
「おー、話してみろ」
「解決しなかったらまた話に来るよ」
「来んでよろしい」
「後ろの席だから勝手に話すわ」
「あっそ」
「うん、じゃね」
壁も何も無い外に面してる廊下を通ればブルりと震えた。カーディガンの上からいくらブレザーを着ていても寒いものは寒い。受験戦争真っ只中。清志は多分図書室に篭ってる。
「さっむ」
そんなことを呟きながら階段をたんたんと登る。こう、校内全体に暖房が効いててくれたら文句ナシなんだけど、教室だけだって言うのが辛いんだよね。教室から出たら無茶苦茶寒いし。
でもまぁ、図書室は本当に暖かいからいいんだけど。こんなところで勉強してたら眠くなるわ、私だったら。いや、自分の家も部屋も同じような状態だけど。
「わっ」
「!?……名前、静かにしろよ」
「静かじゃん。現にこそっと話してるでしょ」
「……帰んのか」
「うん」
「……気をつけろよ」
送ってくれないんだ。今も目、合わせてくれない。別にこの状況で構わない。でもそれでも、寂しいからやっぱり嫌だと、矛盾していることを思ってしまうのだ。
「ねぇ」
「……何」
「ちゅーしてもいい?」
「は?」
彼のマヌケヅラに噴き出しそうになった口を押さえる。また、顔真っ赤にされてそっぽ向かれてついには席を立たれてどこかへ行ってしまった。
ああ、まただ。また、照れてどっかに行ってしまった。
「ばか。本当にばか」
何か、泣きそう。ここまで拒絶されたら泣きそう。すごく悲しい。
「名前」
「何、よ」
「これで、その、精一杯なんだよ……俺は……!」
振り向き様に額に当たったのは紛れもなく清志の唇なわけで。前を向くと新聞紙。教材よりも、教科書よりも大きいそれは私たちを容易に隠してくれた。彼はこれを取りに行ってくれたのだろう。
それにしてもデコちゅーとは、また照れるなぁ。
「っておま、なんで、泣きそうになって……!?」
「嬉しいのと清志が可愛いのとがあって辛い」
「意味わかんねぇ!」
「しぃ……!図書室ではお静かに、でしょうがよ」
そう言って今度は私から清志にほっぺちゅーしてやった。お互い顔が真っ赤になったが、気にもとめず帰り道、寒空の下で手をつないだ。
それを木村に後日報告したらリア充爆発しろと言われた。
「ねーねー清志」
「あ?」
「ちゅーしてよ」
「……バァカ」
そんな会話をしながら頬にキスしてくれるようになった君には、いつかは口にしてくれるって信じてる。
。。。
おっし〜様
二度目のリクエスト有難うございました!あまり切なく甘く書けませんでしたが、気に入っていただけると幸いです。またもや宮地さんになりましたが、いかがでしょうか。ここをこうして欲しい、もっとこうして欲しいなどございましたら連絡ください。
リクエスト、有難うございました(^^)