指切りげんまん

生徒と先生の恋。そんなの、生徒の一方的片思いで終わる。告白したってそれは恋じゃない。憧れだって言われる。わかってる。けれども、本人がそれは恋だと言えばそれは恋なのだ。だから、これも私にとっては恋。でも伝えるつもりない。だって、好きだって伝えた子はぜーんぶ玉砕。憧れだと、勘違いだとそう言われたと泣いて帰ってきたのを私は知ってる。


だから、


「先生、質問があって」
「ああ、苗字さん。どこだい?」


この距離でいいの。
質問しに行けば、教室の比じゃないくらい近づける。だから、この距離がもう私にとっては幸せなんだ。


「ここなんですけど……」
「ここは、今日説明したところだろう?話聞いてなかったのか?」
「聞いてたけど、わからないんです」
「……じゃあ、もう一度。オレの説明が悪かったんだろうから」
「いや、そうじゃなくて……」
「……じゃなくて?わかってるのに質問しに来る自分が悪いって?」


俯いていた顔を思い切りあげた。いつもと変わらないその表情、声が初めて怖く感じた。


「苗字さんはオレのことどう思ってる?教師と生徒だけど」
「ッ、あ……え、っと」
「オレのこと好き?」
「ちがッ」
「そうなんだ?」


その見透かしてくる目でさえも、カッコイイそう思ってしまう自分は末期だ。でも、それと同時に怖いという感情が浮かんでくる。胸を締め付ける。


「まぁ、苗字さんは優秀だからわかってるよね」
「……ッ」
「教師と生徒、だから」
「わかってます。それに、先生の勘違いです。私はただただ先生に質問しに来ているだけです」


だから、大丈夫。その大きな手になでてもらえるだけで幸せなのだから。この幸せな関係を無理に壊さなくてもいい。

また先生の授業の後、話を聞きに行く。先生のいる準備室の扉を開けようと手をかけた瞬間だった。ああ、また告白されてるってわかった。今日で何度目だろうか。
怖いと感じたあの日から、また同じような日常が続いた。いつもと変わらない質問をしてたまに軽く話す。そんな日常。その中には先生が告白される、という日常もある。


「せ、先生好きです。生徒と教師なんて、付き合えないのはわかっています。重々承知です!でも、その……好きなんです!」
「……それはね、憧れだよ。それと、冒険かな。少し違った環境で恋をしてみたい、それだけだ」
「違います!私は本気で!」
「それに、オレにも好きな人がいるんだ。だから、その告白は受けるつもりは無いよ」
「ッッ……」

違う、最後だけいつもと違う。どうして、好きな人がいるなんて初耳だった。でもあんなに素敵な男性だから女性に放って置かれるはずないし、それに子供っぽい自分たちなんかより話が合う大人な女性の方がいいに決まってるよね。気づくの、遅すぎるよ自分。ぜーんぶ、矛盾してる。馬鹿みたい。


「でも、ありがとう」


今日はどうしてそんなに優しいんですか。


「せーんせー」
「ん?」
「また女の子フッたんですか?」
「……女子は情報が早くて怖いね」
「また泣いてたって聞きましたよ、優しくフッてあげたらどうですか」
「今度はそうするよ」


この間の会話内容を思い出した。


「すみませんでした、いきなり……有り難うございます」
「……ああ」


この間話したことのせい?おかげ?優しくフッたのは私のおかげ?
泣いて出てきた女の子は学校でも人気のある明るくて優しい女の子で有名な子だった。こんな子でもフられてしまうんだなぁ、と綺麗な泣き顔をチラ見して扉を開けた。


「ああ、苗字さん」
「こんにちは」
「勉強熱心だね。実はオレに会いに来てる?」
「自意識過剰お疲れ様です」
「相変わらずだな、そっけない」
「すみませんね、他の生徒とは違って可愛らしくないんですよ」


妖艶に笑う赤司先生。先生が高校生で、簡単に質問できたりモノの貸し借りができる、そんな仲だったら良かったのに。“先生”じゃなくて、“赤司くん”だとか、“先輩”だったらよかったのに。


「別に可愛くないなんて言ってないさ。それが苗字さんだから」
「今回は―」
「ねぇ」
「……はい」
「さっきの、断り方でよかった?聞いてたろ?」
「…………いいんじゃないですか?」


ついでに私も優しくフってもらおうか。そんな阿呆らしい考えが頭をよぎる。


「先生、好きです」


言ってしまった。この場から逃げたかった。阿呆なことだってわかってたのに、理解してたのに。言ってしまってからではもう取り消せない。


「オレは教師だから」
「わかってます」
「だから、卒業するまで苗字さんの気持ちが持ったらいいよ」
「へ?え?何で……」
「この間のは少し揶揄い過ぎたなぁって反省してるんだけど」


頭がついていかなかった。この人は、目の前にいる先生は本当にあの赤司先生なのだろうか。


「つい可愛くてね。揶揄ってしまった」
「何言って……!」
「オレはね、努力する女の子が好きなんだ。それに、苗字さんの格好もね。オレのあまりにいた子達はあまりにも派手だったから」


オレが好きな子は清楚な子だから。


「待っててくれますか?あと1年ですが」
「オレで良ければ待ってるよ」
「じゃあ、約束です。小指」


指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます指切った


早く来い、1年。

。。。
リクエスト、ありがとうございました。お待たせしました、教師と生徒の垣根を超えた恋愛。なんてそんなにお恐れたものは私の文才では表現できませんでしたが、気に入って下されば幸いです。赤司くんの性格が迷子になってしまいました、すみません。
これからも、よろしくお願いします(^^)

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