好きだったよ、バカ
「うん。……うん、研磨ありが、とう。迷惑かけて、ごめん」
ポロポロ流れる涙は底を知らないかのように流れ落ちる。携帯電話から耳を離してベッドの上でそれを握り締める。早くしなきゃ早くしなきゃ、そう思っていたのに言い出すことなんて言えなくて。もう、そろそろ言わなくては間に合わない時期に到達していた。
だから、言った。
「ごめんね、ごめん……鉄朗、ごめん……」
私の最初で最期の好きな人、大切な人。大好きで、大切で、離れたくなくて。そんな人だったのに、もう辛いな。どうして私がこんなふうにならなきゃいけないんだろう。携帯を握りしめて、涙を止めようと瞼を固く閉じる。
「ふ、ぅ……ッあ……くッッ」
ごめんね、鉄朗。ごめんね。謝ることしかできない私を許してください。
「鉄朗、別れよっか」
「は?何言ってんの、名前さんよ。そういう冗談はやめろよ」
「冗談じゃないよ。私ね、鉄朗以上に好きな人ができたからその人に乗り換えようかなあって思ったの。だからね、別れて」
私のことなんて嫌ってくれたらいい。私が居なくなってもあなたが悲しまないように。泣かないように。鉄朗は優しいから。泣いてしまいそうだけど、それでも少しでも泣かなくなるなら。私はいいから。だから、さようなら。
「私、鉄朗と付き合ってみて思ったの。合わないなぁって」
そんなことないよ。大好き。鉄朗が話してくれるバレーの内容なんか、すごく好きだった。
「彼はすごく話が合うし優しいの。包容力とかすごいし!」
鉄朗はとっても優しかったよ。私には甘甘で。幼馴染みだったのにいつのまにか男になっているはその手に包まれた時は本当に嬉しかった。
だから、泣かないでね。
「一方的でごめんね。でも、なんかもういいやって思って」
私最低だ。わかってる。きっと、鉄朗ならわかってるって。いなくなったら気づいちゃうってわかってる。でも、もういいの。少なからず嫌いだったら、あまり泣かないでしょう?
「だから、バイバイ」
鉄朗はこの時何を思って笑って言ってくれたのだろうか。
「そいつと、幸せにな」
そんなあなたに、もう一度この二文字を伝えればよかったと後悔したのは彼に背を向けてからだった。
「好きだったよ、バカ……」
本当は怒って欲しかった。別れたくないって言って欲しかった。でも、鉄朗は想像以上に優しすぎた。相手の幸せを願ってしまうほどに。
。。。
名前に別れを告げられて、その意味を理解したのは一週間後だった。
彼女の母親から来た電話はなんなのだろうか。何故、おばさんは泣いているんだ。俺の名前と名前の名前を連呼して、最後にようやく要件を理解した時馬鹿なやつだと思った。
「死んだ……?」
ああ、本当に馬鹿なやつだ。病院に駆けつけて、その顔を見た瞬間俺は何を思ったのだろう。涙が出なかった。ただ、ひたすらに胸が痛くて喪失感が半端なくて。真っ青な顔で、唇なんて真っ青で。冷たいその手は、もう俺の手を握り返してくれることはない。
「名前、冗談はやめろってこの間も言ったよな俺さ」
返事なんか帰ってこない。わかってる。
「見え見えの嘘ついてよ」
この間の別れ話なんてすぐに嘘だってわかった。だけど、冗談でもそんな事言うような人間じゃないってわかってたから、事情を話してくれるまで待つつもりだった。そんな俺は馬鹿だったろうか。
俺がお前を嫌うわけねぇだろ、バーカ。
「名前、好きだよ。大好きだ。俺はお前が思ってるほど優しくねぇよ。我慢強くもねぇよ」
いつの間にか二人になっていた病室はあまりにも静かで、ドッキリでしたなんて誰かが言ってくれる雰囲気ではなかった。
「名前、起きろ。お前もうすぐ誕生日だろ。誕プレ買ったのに誰に渡せばいいんだよ。お前の事考えて買ったのに、他に誰に渡したらいいんだよッ…!」
置いていく側に関しては、仕方が無い。だが、置いていかれたがわからしたらなんて辛いことなのだろうか。自分が置いていかれるというのは。愛する者が先に逝ってしまうといつのはこんなにも辛いものなのか。
「好きだったよ、バカ」
そんな彼女の声が聞こえたのは気のせいだったろうか。
。。。
Ruka様
遅くなってしまい申し訳ございません。月島か、黒尾という事でしたので、黒尾で書かせていただきました。リクエストありがとうございます。解りづらいですよね、すみません。書き直せ、ということでしたら書き直させていただくので、また何かありましたらご連絡お願いします。