あなたは百合のようで

アタシの目の前にいる子はいっつもいっつも自分を謙遜する。すごいわね、そう伝えればそんなことないよと笑うのよね。何でかしら、謙遜しなくともいいのに。

「名前ちゃん」
「どうしたの、実渕くん」
「そのよそよそしい呼び方やめなさいよ〜」
「え、よ、よそよそしいかな?」

困ったように笑った名前ちゃん。いつもこの子はヘラヘラ笑う。まるで、笑わなきゃいけないように。
それにしても、日直って言うのは面倒くさいけれどこういう時は役に立つのね。二人だけの教室。開きっ放しの窓からはグラウンドで部活をしている生徒の声が入ってくる。

「実渕くん」
「……なぁに?」
「何でもないよ」
「何よそれ」

「……ん」

「え?」
「玲央、くんは?」

アラ、アタシ呼び方を変えてくれるなんて思ってなかったわ。やめて、とは言ったけど。しかも、みんなと違うのね。「レオ姉」なのに、みんな。それに、名前で呼んでもらっていてもちゃん付けだったわ。

「なんか新鮮ね」
「へ?お、可笑しいかな……」

その頬が紅いのはきっと、夕陽だけのせいじゃないわね。
照れた時に髪の毛を耳にかけるのは、癖なんだわ、きっと。名前ちゃんは気づいていないのだろうけど。

「アラ、髪の毛跳ねちゃってるわ。待って、直したげる……よし、いい、わ……よ」
「ッッ……」

腕を伸ばして髪の毛を直してやれば、顔は真っ赤。本当に、この子はいろんな意味で危なっかしいわね。男慣れもしてなければ赤面症。そんなすぐに赤面されたら、勘違いしちゃう。

「なーに、いっちょ前に顔紅くしてるのよ」
「え、あれ!?紅いかな!?」
「とーってもね」
「やだ……恥ずかしい」
「そう?可愛いけど」
「もう!そういうこと簡単に言ったらダメだよ………玲央くんのばーか」
「えー?何よ、それー 」

頬を両手で包んで少しうつむくその姿も、本当に可愛らしい。
きっとこうやって会話してくれるのは彼女が、私をお友達として見ているからね。笑ってくれるのも、名前を呼んでくれるのもね。でも、赤面してくれたのは少し嬉しかったわ。それって、アタシのこと少しは男として見てるってことでしょう?望みは、あるのかしらね。

「可愛い字ね。女の子らしいわ」
「そうかな。私の字、そんなに可愛くないし綺麗じゃないよ。玲央くんの方が綺麗」
「アラ、ありがと」
「ふふ、どーいたしましてっ」

二人で、向き合うようにして座って。日誌を書くその細くて白い腕を見て。たまに顔を上げて大きな目を細くして笑う。ああ、愛でたくなるわね、本当に。大袈裟かもしれないけれど、愛おしい。

「ねぇ、名前ちゃん」
「はい」
「今度一緒に出かけない?」
「え?どこに?お金はそんなに持ってないから奢るとは……」

何に焦っているのかと思ったら……バカは貴方よ。

「あはは!何変な勘違いしてるのよ。たかってるんじゃないのよ?」
「いや、でも残されたのは私の日誌の書くスピードが遅いからでその礼をしろ、とか」

あまりにも珍妙な回答に腹を抱えて笑った。久々よ、こんな笑わされたのは。ていうか、アタシはそんなふうに見えているのかしら。たかるような人間に見えてる?

「じゃあ、普通にデート」
「デート……?」
「ええ。ダメ?」
「だ、ダメじゃないよ!でも、あの、私なんかでいいのかな?」
「アラ、あんたがいいから誘ったんじゃないの名前ちゃん」
「わ、私なんかでよければ……」

ほら、まただわ。

「なんか、なんて言わないで頂戴」
「?どうして?」
「私が気に入らないからよ」

気に入った子が謙遜しまくりだったら、調子狂うのよね。

「どうして?」

何度も問うてくるその顔に自分の顔を近付けてやったら、ほら、真っ赤。

「!」
「アナタが綺麗だからよ」
「??」
「謙遜なんてもったいないって言ってるのよ」
「え、と……玲央くんの方が」
「ダーメ」

アタシの方がって、言おうとした唇に人差し指を当て遮る。ああ、余計に真っ赤だわ。

「かわいい」

―キスしちゃいたいくらい

そういえばあなたは余計に真っ赤になった。それから、もっと顔を近づけて額に口付ければ小さく聞こえた悲鳴。

「今度、って言ったけど今、行かない?」

あなたが頷くまであと何秒?



百合―純情、無垢
。。。
六花様
素敵なリクエストありがとうございました。特にお花の指定がなかったのでこちらで勝手に決めてしまいましたがよろしかったでしょうか?素敵なリクエストありがとうございました。あまり花言葉に沿ってのお話ではありませんでしたがレオ姉大好きなので書いていて楽しかったです!本当にありがとうございました。また何かあったらご連絡ください

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