喧騒に紛れて

初めは緑間くんと高尾くんと三人で夏祭りに行く予定だった。


《ごめん、用事できて行けないから真ちゃんと二人で楽しんできて!》


何度そのメールを見返したことか。高尾くんのことだ。もしかしたら、私の気持ちを配慮してくれたのかも、なんて思ったけれど本当に用事かもしれないし何とも言えない。


「苗字」
「緑……間、くん」


かっこいい!思わずそう叫びそうになった。だって、浴衣だよ。あの顔に浴衣だよ。似合うに決まってるじゃん。私も浴衣着てるけど、そんなに似合ってないし。さすが緑間くん。


「苗字……浴衣なんだな」
「え?あ、ああ、うん!みみ、み緑間くんは浴衣似合ってるね!」


どうしよう、初っ端から顔熱くて恥ずかしさで死にそうなんですけど。私この人の隣りに歩くの?いや、隣とかハードル高すぎる。斜め後ろだ。それでも、照れるなぁ。こんなカッコイイ人の友人ってだけで幸せなのに。


「そう、か?その……苗字も似合ってるのだよ」
「本当?あ、ありがとう!」
「ああ。それより、高尾は」
「何か用事ができちゃって来れないって……」
「そうか」


とりあえず、緑間くんに似合ってると言われただけでもうごちそうさまです。嬉しすぎて顔がにやけるのが分かった。自分でも分かるとは相当ものなわけで、持っていた団扇で顔を半分隠す。


「仕方ない、行くか」
「う、うん」


前をスタスタ歩き出す緑間くん。いつもは緑間くんの隣りに高尾くん、その隣に私というポジションだが、高尾くんがいないために前後になってしまう。だって、隣を歩くというのはさっきも言ったようにあまりにもハードルが高すぎる。
それからは色々な出店を回ったりして、楽しかった記憶がある。ただ、隣に並ばれた時なんてとっても恥ずかしかったけど。


「あ、金魚すくい」
「やるか?」
「えっと、うん」
「何だ?」
「うちで一緒に住むことはできないのが残念。うちんち、猫いるからさ」


それでも、何歳になっても金魚すくいというものは楽しいのだ。


「もって帰らなければいいのだよ。するだけしよう」


ということは一緒にやるんだ。緑間くんって何でもできそうだけど、金魚すくいもできちゃうのかなぁ。ちょちょいのちょいって、たくさんすくいそう。私なんて好きなだけで全然できないからなぁ。おじちゃんに三匹までなら持って帰っていいよ!なんて、すくってもないのにもって帰らせてもらった記憶が一度小さな時にある。


「2人」
「はいよ!」
「え、緑間くん!私払う!」
「いい。俺が払おう」
「いいってば!」
「ほら、やりたかったんだろう?」


ポイを渡されてついつい金魚がたくさん入っている水槽に目が行く。それでも払わなければと巾着を開けようとすれば横から緑間くんがその巾着を奪ってしまった。


「いいと言っているのだよ。たまには甘えろ」
「でも、」
「こういうのは男が払うものだ」


そういうのされると、誤解しちゃうんだけどなぁ。たぶん緑間くんは天然だからそんなこと自然にスマートにできてしまうんだろうけど。あなたに片思い中の女からするとこのシュチュエーションは美味しすぎる。


「では、苗字名前行きます」
「ああ」


緑間くんと隣に並んでいることがすごく嬉しくて、頬が緩む。真剣そうに金魚を見ているその顔がとても格好よくて、ずっと見ていたいと思ってしまった。


「苗字、その、見られると……」
「えっ!?あ、あああああ、ごめんね!ごめん!そのえっと……うん、緑間くん格好いいなぁって」


自分は何を言っているんだぁぁぁぁああああ!!!?ああああ、恥ずかしい恥ずかしすぎる。本当になんてこと言っちゃったの。
あ、ポイ破れちゃった。それは緑間くんもみたいだ。


「結局、二人ともそんなに取れなかったね」
「……ああ」
「でも久々だったなぁ。大きくなったからかな、小さい頃よりももっと取れてた」
「……そうか」
「緑間くん?どうかした?」
「いや、その……苗字はああいうことを誰にでも言うのか?」
「ああいう、こと?」


いつの間にか横を歩いていた緑間くん。さっきまではもう少し前を歩いていたのに。


「かっこいい、だとか」
「え?あああ、あれ!い、いや、そんなことない、よ?」
「そうか。ならいいのだよ」


だから、その反応は期待しちゃうんだってば!こういう時に高尾くんがいたらきっと真ちゃんはこう言ってるんだぜ!と訳してくれるだろうに。


「ねぇ、緑間くん。そう言うこと簡単に言わない方がいいんじゃないかな?」


かっこいいは無意識に飛び出てしまった私の失態だが、これは緑間くんの天然だ。直せるのなら直したほうがいい。私のように勘違いしてしまう女子が続出してしまうだろう。いや、まず緑間くんに近寄ってくる子なんて少ないけれど。ほら、緑間くん変わってるから。それでもたくさん好きだって言う子はいる。


「何のことなのだよ」
「ほら、えっと具体的には説明しにくいんだけど……女の子を期待させちゃうよ」
「??」


ああ、わかってないよこの人。本当にもう、ダメだなぁ。こういうところもひっくるめて好きなんだけど。


「そうだ、苗字」
「んー?」
「来年もこうして、来ないか」
「へ?」
「その、ふ、二人で」
「そういうの!そういうのが女の子を期待させちゃうんだよ!!」
「なら期待すればいい」
「は?」
「こんなこと、俺はお前にしか言わん」
「な、なな、な」
「高尾にいい加減にしろと怒鳴られたのだよ。想いを伝えるなら伝えろとな」


高尾くん、グッジョブ!


「で、返事は?」
「そんなの、もちろんだよ。高尾くんには悪いけどね」
「何故?」
「だって、今年も来年も私が緑間くんとっちゃうから」


手を繋ぐというのはハードルが高くてできなかったけど、彼の袖を掴むくらいなら良いかなと手を伸ばす。かすかな重みに気づいた彼はこちらを向いて直ぐに前を向いてしまったが、手が伸びてきて私の手を握ってくれたのは言うまでもない。


。。。
匿名様
初緑間でした!緑間は語尾が難しくてどこでどう使ったらいいのかわかりませんでしたが少しでも甘くなっていればいいのですが……甘いものを書くのが少し苦手なので。
リクエストありがとうございました(^^)

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