大切な人。

目の前に見えた人物に手を目一杯振る。もちろん、気づいてくれた彼も振返してくれた。


「玲央ー!」
「名前じゃない!久しぶりね」
「うんうん。久しぶり!」


本当にいつも会っていたというのに、今では彼からの連絡もめっきり途絶え、私から連絡しても忙しそうに仕事をしていて会える状況じゃなかった。だからだろう、会えたことに心が跳ね、嬉しいのは。


「やぁ、玲央。僕もいるんだが?」
「征ちゃんも!久しぶりね。忘れてなんかいないわよ」
「ああ、久しぶりだね。元気にしていたのかい?」
「勿論よ!仕事が忙しすぎてこの間まで死にそうだったけれど。今は一段落して休憩中よ」


少しばかり窶れている玲央は、以前会った時よりもより一層仕事に没頭している気がする。仕事ばかりしている気がするんだよね。忙しいのはもちろん分かってる、だって玲央最近テレビにまで出演し始めたから。でも、それでも限度ってものがあると思う。


「さぁ、パアッと飲むよ!」


だから、玲央の好きなレストランに呼んだ。せめてリフレッシュくらいになればいいな、と思って。
でも、征がいたら落ち着かないと思って征は誘わなかったのにまさかの一緒に行くと言い出したから三人一緒。絶対征がいたら玲央は気を使うと思う。


「さぁ、玲央さん玲央さん飲んで飲んで!」
「アラ、ありがとう。でも、名前はそんなに飲んじゃダメよ。何回アタシが運んだことか」
「それはもう忘れて!」
「ったく、アンタ愚痴言う度に飲みすぎて寝ちゃうものねー!」


人差し指で額を何度もつつく玲央は、二人でよく飲んでいた頃にしていた表情だった。落ち着いた、眉間が開けた顔。それでいて口角を目一杯上げて笑っている。せめて今日くらい仕事の事を忘れてパァッとストレス発散して欲しい。


既に飲み始めて時間がかなりたっている。もちろん、三人ともほろ酔いだ。いや、私はかなり酔っている気がする。頭の中がほわほわするのだ。


「で、玲央はさー」
「はいはい」
「なーんでいつも連絡くれないの?」
「忙しいからよ、馬鹿なの?」
「むふふ、馬鹿なわけ無いでしょう?そっかー忙しいのかー」
「ほら、そろそろ名前お酒飲むの止めなさい」
「れーおー」


伸びてきた大きな手を掴んで抱きしめる。その瞬間玲央は額を抑えて溜息をついていた。何事かわからなかったけれど、視線で理解する。ああ、そういえば後ろに征がいるんだった、と。こうなるのが嫌で余計に連れてきたくなかったのに。
むんずと掴まれた手。勢い良く引かれて玲央の腕を手放す。


「玲央、また飲もうか。今度は二人で」


その言葉に震えたのは仕方が無い。
肩を持たれて体ごと反転する。つまりは征と向き合うといことだが、いきなり近づいてきた顔に対応しきれなかった。無理やり押し付けられた、口づけ。


「!!?」
「……玲央、彼女は、名前は僕の大切な人だ。奪う事なんてさせないがそんなことしようと思うのなら許さない」
「(相当酔ってるわね……)しないわよ」


追いつかないその思考に膝から崩れ落ちそうになるところを征が抱きとめる。あれ、私どうなっているんだっけ?ああ、征の腕の中にいるんだ。ガラスに映った征の後ろ姿と私の顔、それに玲央がぼんやりと映っていた。いまいち、どうなってるかわからない。


「もう、その子を家に運ぶのはアタシじゃなくなったわね」
「……当たり前だろう」
「ええ、そうね。少し淋しいわ」
「淋しい?」
「勿論。大切だった娘が親元を離れていく時、こんな感情を持つのかしらね?」
「誰が親だ誰が」
「親から言わすと、泣かしたら征ちゃんでも許さないわよ。引いてやったんだから幸せにして頂戴ね」
「勿論だ」


何の会話をそのときしていたのかなんて聞こえていないが、征の体が暖かいことだけ覚えていた。あの後どうやって家に帰ったかも覚えていない。車に乗ったところまではおほまえているのに。どうやってベッドに寝転がっていつ目を閉じたのかわからない。
ただ、その時に聞こえた言葉に暑い顔が余計に暑くなったのは覚えている。


「名前のことは僕が幸せにするさ」


今度はぶつけるような口付けではなく、優しい口付けだった。


「ほんとうに?」
「ああ、絶対だ」
「ほんとうのほんとう?」
「僕が言う事は絶対だよ」
「そうだね……うん、しわあせにしてね?」


呂律の回らなかった口で征の口を塞ぐ。


「すき、よ……征」
「僕もだよ」


そこから意識がなくなるまで、征は私の手を握っていてくれた。


。。。
あかね様大変遅くなってしまい申し訳ございません!これでよろしければ……!ダメでしたらおっしゃってください。書き直させていただきます。リクエストありがとうございました

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