#拡散希望

私のクラスに氷室辰也という帰国子女がいる。イケメンというより綺麗な顔をしている。2年の間でモテモテな彼。いや、この間は一年生と三年生にも呼び出されていた為、きっと陽泉全学年女子から人気なのだろう。末恐ろしい。確かに顔は綺麗で、性格もジェントルマン。優しくてレディーファースト。そんな彼だからもててしまうのは仕方のいことなのかもしれないが。
何故、そんな彼の話をしたかって?目の前でその彼が綺麗な顔をして眠っているからだ。


「ひーむーろくん」


スヤスヤ。
そんな効果音がつきそうな寝息である。


「ほんっとうに綺麗な顔してるなぁ……写メって拡散してぇ」


それは人間としてどうなの、となるので冗談だが。そんなことできるはずもないだろうが。
こんなになるまで、彼は今まで何をしていたのだろうか。部活?氷室くんは何の部活に入っていたかな。確か、練習がハードと有名なバスケ部だった気がする。きっと、お疲れなのだろう。


「手、大きいなぁ」


机の上で組まれている手の横に自分の手をおけばあら不思議。私の手よりも一回り二回りも大きい手だった。それから、自分の席について彼を観察する。まつげ長いなぁ、鼻筋も通ってる。


「芸術品みたいだ……って、氷室くん寮だよね。帰らなくとも、いいのかーい」
「……」
「ダメだ、撃沈してる」


彼は今眠りの国で今戦っているんだろうけど。
さっきの拡散したい、というのは冗談だが私個人の携帯に彼の寝顔が入っていてもいいかな。許されるかな。


「そうっとすれば、バレないかなぁ」
「んん……何がだい?」
「うわぁぁああああ!」


携帯落とす!そう思ったが落ちた音なんてしなくて、あえて言うのならば私の後ろの机と椅子にぶつかって盛大な音を立てた程度だろう。かなりうるさかったが。


「ひ、氷室くん……おはよう」
「うん、で?何してたの?」


怖い怖い怖い怖い怖い怖い!何で笑顔なのにこんなに怖いんだろうか。
そりゃ、目をパチクリと開けてみれば隣の席の女子が自分の顔の前で携帯を構えているのだ。驚くに決まっているだろう。いや、しかし……


「え、あ、う……あは、あははは」
「人の顔の前で携帯構えて何してたのかなぁ……」
「あは、あはははあはははは」
「名前、何してたの?」
「いや、ちょっと氷室くんの写真撮ろうかなぁとか……」
「拡散するつもりで?」
「……すみませんでした」
「よろしい」


笑顔まで綺麗とはどういうことなのだろうか。この世にはこんなにも綺麗な顔の人がいるとかと、本当に感心する。
プラプラと目の前で揺れているのは落ちたと思った自分の携帯。氷室くんの反射神経が良かったから取ってくれたようだ。さすがバスケ部。球の取りこぼしなんて許されない部活である。


「しかし、結構寝てたみたいだね」
「え、ああ。みたいだね。部活で疲れたの?」
「多分ね……もうすぐ、WCだからさ」
「部活がいつもよりハードになってるんだぁ……大変だね」
「うん。寮長に怒られないか心配だよ」
「寮長さん、怖いわけ?」
「うーん、普段は温厚なんだけど怒るとね」


氷室くんは本当に気を失ったように寝ていたらしく帰る用意も何もしていなかったようだ。話しながら帰る用意をし始めた彼はロッカーに行ったり机の中を覗いたり、横黒板に書かれた明日の日程を確認したり忙しそうに動いていた。自分は学校に忘れた宿題を取りに来ただけだから、そんな彼の行動を見守る。


「名前はいつも見てるね」
「何を?」
「オレを」
「え……そうかな」
「うん。恥ずかしくなるほどね」
「え"、なんかごめん。次からは気をつけるよ」


そんなに見ているつもりなんてなかったのにな。苦笑した彼は鞄を手に持って私の席の前にたってジッと見てくる。
顔に何か付いているのかと顔を触るがそんなこともなさそうだ。


「え、え、え?」
「あは、いつものお返し。オレのこと見てくるだろう?」
「だ、だから!ごめんってさっき言った!」


教室を出ていった彼の後ろについていく。私が出た後に扉を占めるのは、帰国子女ならではの、なのだろうか。わからないが。
靴を履き替えた彼の隣を歩くと思うことはやはり彼は女性慣れしているということ。歩く速度をちゃんと合わせてくれるし、車道側を歩いてくれる。


「あれ、何でこっちに来てるの!あなたは寮でしょう?」
「送っていくよ。もう外も暗い」
「いや、送っていくよ、じゃないよ!怒られるかもしれないんじゃないの?」
「そんなの、名前が誰かに襲われるかオレが怒られるかなんて聞かれたらそんなのオレが怒られたらそれで済む話だろう?」
「平気だよ……家近いし、学校来る時も一人だったし」
「危ないだろう。ダメだよ、送っていく」


頑なに首を縦に振らない彼に折れて結局送ってもらうことになった。こうやって異性と帰るのなんて何年ぶりだろうか。だからか、変に意識してしまう。


「氷室くん、これも、帰国子女だから?ジェントルマン精神?」
「ジェントルマン精神?って良く分からないんだけ
ど」
「あのね、こういうことあんまり女の子にしない方がいいよ?勘違いすることか出てくるからさ」
「勘違い、って?」
「氷室くんが私のこと好きなのかも!っていう勘違いを乙女はするの」
「名前は?しないのかい?」
「私はしないよ。そこまで自惚れてないし、馬鹿じゃないもん」


とかいいつつ、少しだけ胸が高鳴っているのは氷室くんが綺麗な人で優しくてモテモテな人だからだ。そう、そうなんだ。私みたいな平凡な女の子を彼が好きになるとは思えない。ただの、隣の席の女子だ。


「何故?してくれてもかわなかったのに」
「へぁ?」
「うん、そういう変なところが好きだよ」
「へ、変……?」
「うん。名前は見ていて飽きないよね。動きが馬鹿っぽくて余計にね」
「それ褒められてる?」
「オレは褒めてるつもりだけど……他者から見たら馬鹿にしているように見えるだろうね」


そんなこといいながら、いい笑顔作らないで。さり気なく傷つくよ。というか、普通に流してしまったけれど、氷室くん「好き」って言わなかったか?
likeの方の好きなんだろうけれど。


「ねぇ、名前」
「何ー?」
「オレの告白は無視?」
「は?」
「オレ、今告白したんだけど?」
「いやいやいや、likeの好きでしょ?」
「違うけど。loveの好きだけど」


何だか、今物凄く顔が熱い気がする。もう、季節は涼しいを通り越して寒くなっていているというのに。私の顔だけ熱い。


「名前は?」
「……好きでもない人の寝顔撮ろうとか思わないでしょ」


私より一回り二回り大きい手と手を当たり前のように恋人繋ぎをする。氷室くんはこういう時、ナチュラルだから余計に恥ずかしいのだ。照れてるの、と聞かれれば素直に首を縦に振るしかできなかった。


次の日、学校では氷室辰也に恋人ができたという噂で一杯になったのであった。

。。。
麗華様
リクエスト、有難うございました。甘くかけていたでしょうか……私は甘いものを書くのが苦手なので心配になります。初氷室先輩なので、不自然な部分などありましたから仰ってください。加筆修正をいたしますので。
これからも、宜しくお願いします。

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