人ってどれだけ泣くんだろう。
疑問に思ってインターネットで検索しても答えは様々。でも大半が60〜65Lだそうだ。昔、大好きな人に涙って何L流れるか知っているか、そう聞かれた。
「わかるわけ無いじゃん」
「……どうしたー?」
「おー、小金井。いんや、何でもないよ」
「そか」
あの時、泣いている私に聞いた君は今何をしているのだろうか。
「てか苗字も熱心だよねー絵ばっかり書いてつまんなくないの?」
「ぜんぜん?」
もうそんなの、高校の時の話だったし、彼は東京で、私は京都。
中学からの付き合いだった彼は私と付き合っていたけど遠距離は耐えられないと彼は言った。その時流した涙を見て、彼は言ったんだ。先程の言葉を。
「ねぇ、小金井ー」
「んん?」
「涙ってさ、何L流れるか知ってる?」
「えー?さぁ?知らないよ」
窓の外に向いたままの顔はどんな顔をしているのかわからない。わからないが故に彼の見ているであろう目線の先を追った。
「……俊?」
「え?何、伊月と知り合いな感じ?」
「小金井も知ってんの?」
「知ってるも何も同じ高校だったし」
そんなことどうでも良かった。直ぐに筆とパレットを机の上に置いて駆け出す。同じ大学だったのに驚いた。
「……なんで伊月が泣いてんの?」
まだ乾き切っていないキャンパスの中にいる人物。それは私が最も求めている人。小金井の声に知らない、そう言って直ぐに美術室から出る。
階段を降りて走って降りて走って。ようやくたどり着いた所には俊はいなくて、周りを見渡す。
「っ、いないか……」
「苗字ー!右!右曲がってった」
「!さんきゅー、小金井!」
必死では知って、お昼食べたものがお腹の中でぐるぐる回って、せり上がってきそうなその感覚を必死でこらえて、必死で走った。
「ッ俊!しゅ、ん!」
追いついた貴方の背中はあの時より大きくなっていて、随分がっしりしたと思う。こんな人だったかと思うほど、身長も伸びている。会わなかった5年間で貴方はとても変わってしまったんだね。
「名前?」
「っうん」
息を整えるためにゆっくり空気を肺いっぱいに吸い込む。
「まだ鷲の目健在?」
大笑いされてそして頭を乱暴にしかしどこか優しい手で撫ぜくり回された。それは昔もされていたものだと思い出して、笑った。
「健在健在」
「そっか」
「おう。元気だった?」
「元気元気!」
今まで何してたの、とかどこの学部、とか。そんな軽口叩けない自分に嫌気がさす。
高校の時に止まったままの時間を動かしたい。その思いしかなくて。頭の中は彼女いるの?それだけ。何て浅はかで汚いんだろう。私は俊を追いかけて、それで?聞きたかったのは本当にそれだけ。本当に、馬鹿。
「名前は相変わらず絵、描いてるのか」
「え?あ……」
俊の目線を追えば自分の服装。油絵をしていたためにエプロンを付けっぱなしだったのを忘れていた。それだけ、自分が必死だったんだと自覚する。
「懐かしいな……また名前の絵見たい」
「へ?あ、ああ……うん。見に来てよF棟の方だしさ」
「お、近いじゃん。いくよ、また」
「私も大概そこにいるから用事があったらどうぞ」
「そっか。また名前の絵が見れるようになったんだな」
「う、うん」
「懐かしいな。ていうか、髪の毛染めたの?」
歩き出した彼の隣を控えめに歩けば着いた先は木陰にあるベンチ。よく私はここで写生をしているから、もしかしたらもっと早くにあったことあるかもしれない。彼はよくここを通ると言う。
「大学に入ったら頭染めたいじゃん。憧れでしょ?」
「うーん、俺は良く分からないけど……俺は、前の方が好きだったけど」
その言葉に黒に戻そうかなとか考えた自分は馬鹿かもしれない。
「でも、そっちも似合ってるよ」
「!……そっか、ならいいや」
結局かなり話し込んだ。まるで、空白の何年間を埋めるかのように。同性の子達ともこんなにはなさないのに、俊とだったら話題なんて尽きない。
「ここで会ったのも何かの縁だしさ、今度どっかいかないか?あ、嫌ならいい!」
「え、あ、う、ううん、行く!」
「え?」
「い、行くっ」
期待しても、いいんだろうか。俊の隣に立てるだろうか。子供の時とは違う、大人だけれど、無邪気に笑えるようになるだろうか。
「近くにうまいって聞いたケーキ屋あるけど……そこでいい?てか、今からでもいい?」
きっと少しなら期待してもいい。
「俊、彼女いないの?」
「……いない。今から作るし」
「??」
「俺と、もっかいやり直しませんか?」
そんなの、決まってる。
「もちろん!」
「じゃあ、その店のカップル席入ろうか」
「え、何それ……」
「カップル限定の物が食べれるらしいよ」
「まぁ、行ってあげてもいいけど?」
「え、じゃあ行かなくてもいい?」
「あ、うそうそ!行く行く!一緒に行ってください!」
必死で追いかけてよかった。
「ねぇ、俊」
「どうした?」
「人ってどれだけ泣くか知ってる?」
「それ……名前の答えは出た?」
「私、だったら海になるくらいこれから泣くよ」
「じゃあ、俺はその涙を集めるための器になるから泣かない」
「何それ、答えになってないし」
「いいんだよ。とりあえずさ、泣きやんでくれよ」
嬉しさと懐かしさで胸がいっぱいになって、良く分からない涙がこぼれた。それを彼が親指で拭ってくれる。
別れを告げたその日、私の涙を拭ってくれる人はいなかったけれど、今はいるという安心感が、あるからきっと、余計に涙が流れるんだ。
「俊、好きだよ」
「うん。俺も」
抱きしめられて余計に涙な溢れた。背中を摩ってくれる手が優しくて、ずっと呪文のように彼の名前をつぶやいた。その度にはいはい、と帰ってくる返事に笑ってようやく彼の背中に腕を回すのだった。
。。。
匿名様
伊月先輩の切甘、ということでしたが……あまり切甘ではありませんね。初伊月さんなので何度か修正しましたがやはりギャグは入れることができませんでした。すみません、普段ギャグの類などを言わないために……最後、ぐちゃぐちゃになってしまいました。ご不満などありましたらご報告くだされば加筆修整させていただきます。
リクエスト有難うございました。