お願いごと

「何故ここにいる」
「……いたら悪いの」


WC、洛山敗退。たった、たったの一点差。それは黒子くんが買った証拠でもあり、征が負けた証拠だった。


「負けたんだ」
「うん」


首にに当たった彼の頭は熱くて、赤い髪が頬をかすめるのがこそばゆくて頭を振った。きっと、肩についている額はもっと熱いのだろう。
負けたんだ、とただその言葉だけ言って黙ってしまった彼は一体どんな表情をしているのだろうか。


「名前」
「何?」
「酷いことを沢山言ったね」


中学時代、一軍のマネージャーを桃ちゃんとしていたが、彼女のように何かに特化したものはなかった。それを彼はこう言ったのだ。


『君が一軍にいるのが疑問だよ』


そう言われてしまうと私も何故いるのだろうと思ってしまう。だって、私は征に言われて入って、三軍のマネージャーからあなたに追いつこうと頑張ってきたのに、その全てを否定された気がした。


『お前はなんのために僕の隣にたっている』
『お前は僕の隣に立つべき人ではないな』
『触るな。帰れ』
『マネージャーを辞めるそうだね。お疲れ様』


全て感情のこもっていなかった言葉達。お疲れ様だけが、頭の中に残って怖かった。高校も彼と同じ高校に進むつもりだったけれど行かなかった。彼が怖くて、恐ろしくて行けなかったんだ。
でも昨日、黒子くんからメールが来て


《赤司くんと試合をします。是非、見に来てください》


そう書いてあったそれは私の心を乱した。赤司くんと言う単語だけで心臓が跳ねたのだ。行く、と返信すれば場所の説明、何時頃からなのか、会場は……そんなことが書いてあって最後に一言。


《あなたが彼を助けてあげてください》


いまいちその理由が、意味が、わからなかった。私が、征を、助ける?それの意味が全く理解できないまま彼に会いに来て今に至る。
肩に額を当て黙っている征の背中に遠慮勝ちに腕を伸ばした。


「どうだった?」
「何が」
「黒子くん。強かった?」
「……ああ」
「ねぇ、バスケ、楽しい?」
「………………ああ」
「ならいいや」


私よりもずっと大きい背中。そんな大きくて広い背中を摩ってやれば腰に感じた違和感。それは征の腕で、そのまま引き寄せられた。肩に埋まっていたその顔は、私の顔の横にあってそれが私の顔を赤くさせた。


「征?」
「すまなかった」
「……平気」
「平気じゃなかったから、辞めたんだろう?バスケ」
「うん……」


大好きだったバスケ。ずっと征のそばでバスケというスポーツを見続けるのだろうと思っていたのに、その大好きだったものがとても苦手になってしまったのは悲しかった。


「すまない」
「大丈夫、もう昔のことだから」
「僕の気が済まない」
「じゃあどうするの?」
「また、見せるよ。名前が好きだった俺たちのバスケ」
「本当?」
「それと、なんでも願い事を聞くよ」


また、本当?そう口を開けば微笑んだ征。ああ、彼だ。私の知っている赤司征十郎だ。戻ってきてくれたんだ。


「名前呼んで」
「名前」
「 抱きしめて」


再び腰に回ったその逞しい手。
目頭が熱くなって、視界が滲む。懐かしい征の匂いに頬が緩んで、彼の胸元に頬をすり寄せる。


「あのね、征」
「何?」
「好きだよ。ずっと、会った時から」


この恋はいつか実りますか?疑問だったこの思い。会った時なんてもう記憶にないほど小さい頃だ。それでも、征が転んだ私に向かって手を差し伸ばしてくれている姿だけはちゃんと覚えていた。その姿が小さい私にとってどれだけ逞しくてカッコ良く見えたか。


「それは本当か?」
「嘘なわけ無いじゃん」


体が離れて、唇に柔らかい衝撃。短いながらも温かみを感じたソレはとても嬉しくて、反面恥ずかしかった。


「俺も、名前のこと好きだよ。たくさん傷つけてごめん」
「じゃあその分、癒してね」


再び重なった唇。今度は長くて、その分恥ずかしくて、でもその倍幸せだった。

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あき様に捧げます
遅くなってしまって本当に申し訳ございません!お待たせしました。設定としてはWC終了後で赤司くんがもう既に俺司に戻った設定になっております。最後は甘くなったでしょうか?
リクエスト、ありがとうございました!また宜しくお願いします

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