1合宿も終わり、家に帰ってきました。
「疲れた……」
ベッドの上にダイブするとスプリングがやばい音を立てた。
肥ったかな。
「棗。お前宛に手紙。置いとくぞ」
「えー?誰から?」
「また書き忘れてるな。わからない。中身を見たらわかるだろう」
私の部屋の前に来たかと思うと手紙を扉の前に置いたのだろう。放り投げた音がきこえた。
扉を開けて拾い上げると見覚えがあった。この封筒に無造作に貼られた切手とテープ。冷や汗が流れた気がした。
「……う、そ」
机に備え付けられている引き出しから出したのは同じ封筒だ。
それは私の写真が入っていたもの。写真は全部この封筒の中に入っているはずだ。
……今ハルが持ってきてくれた封筒の持ち主は同じ人物の物だろう。そう思うと体が勝手に震える。
そろりと中身を見ようと封筒に手をかけた。
「棗、誰からかわかったか?」
「うわ!?……ハ、ハルか。うん、友達」
「そうか、変な物じゃないんだな。ならいい」
手から滑り落ちて床に落ちたショックからか、結構な重さがあったからか封筒が破れてしまった。そのせいで中身がぶちまけられる。
「ぃ……や……嘘、でしょ?」
どうして私の水着の写真があるんだろうか。それに背景は海。この水着は合宿中の一日目に着ていた水着だ。
それにこっちは古い方で、凛とこの間買いに行った方は二日目に着ていたはずだ。
ぶちまけられてしまった写真を拾い上げると色々なものがあり、やはりハルや凛。真琴なんかも顔がグチャグチャにされている。
「気持ち悪い……なんでここまで見てんのよ」
それ以前に、どうしてここまでついてきてるの?
ああ、合宿上で見た黒い影はコイツだったのか。だってほら、その時の写真まであるから。
そんな中胃の中のものがせり上がってくる感覚がしてトイレに駆け込んだ。
「ぉ……え……う、ぐっ」
朝食べ物と昼食べたものが一緒に出てきてしまった。それを見て余計に気持ち悪くなりまた戻してしまう。
「……棗?」
「ハ……ル、」
「どうした!?吐いたのか!?」
「は、入らないで……」
駄目だ、心配なんかさせてられない。ハルにはもっと、泳いでもらわなきゃ。大会は明後日なのだから。
何にも気にしちゃ、気にさせちゃダメだから。だから、言えない。頼れない。
「……どうした?」
「朝食べた物にあたったかも……」
ボタンを押して水を流す。
壁に寄りかかりながら立ち上がった。扉を開けるとハルが心配そうな面持ちで私を見た。
「薬持ってくる」
「うん、顔洗ってくる……」
「顔色が悪い。今日は寝ておけ」
「うん」
頼らなきゃいけないのはわかってる。でも、ハルたちには多分何もできないから。
警察に今いえば面倒なことになる。だから、大会終わってからでもきっと遅くないから。その時に伝えなきゃ。
洗面所に行って鏡を見るとハルの言う通り顔色が悪い。きっと、今年で一番顔色が悪い。
「……ふぅ」
洗い終えてリビングに行くと薬と体温計と水が置いてあった。
「飲んで、熱あるかもしれないから測って寝とけ」
「うん」
錠剤を飲み、脇に体温計を挟み込む。音が鳴り数値を見るが至って普通。
当たり前だろう。吐いたのはあの写真のせいなのだから。
写真は全て破って捨てよう。それが一番いい。
ストーカーというものがどれだけ恐ろしいか、初めて知った。
今までは運が良かったのだ。ストーカーなんて、あったこと無かったし平穏な日々を送っていたのだから。
「寝てくる」
「ああ。夜は?何か食べれそうか」
「……わかんない。でも、無理かも」
「わかった。一応簡単なものだけ用意しとく」
「ありがとう」
震える体を抱きしめ、自室に向かう。それから散乱した写真を拾い上げ、ビリビリに破った。
小さな袋に入れてゴミ箱に捨てる。恐怖で涙が溢れた。布団にくるまっても治まらない震え。恐怖からくる震えなど初めてだった。
別に、雷とかが怖くて震えていたわけでもない。こんな初めての経験に恐怖した。
写真に同封されていた手紙には私の名前じゃなく凛やハル、大輝の名前が沢山書かれていて、そのあとにたくさん汚い言葉が書き連ねられていた。人を不快にばかりさせる言葉。二枚目には私の名前と、普通に好きな相手に言われたら女子なら誰だって喜ぶであろう言葉が何行にも渡って書かれていた。
「なんで私なの……」
ただその疑問だけが頭に浮かんだ。瞼を瞑ると真っ暗な世界が広がった。
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